第9章 夏休み3
ーNsideー
1日めいっぱい遊んで。
着替えるために翔ちゃんと手を離したらものすごくさみしくなった。
あっけなく離れてしまった右手を見て、何でもない顔してる翔ちゃんを少しだけ恨めしい気持ちで見る。
さみしいのは俺だけ。
そんなの分かってる。
右手がスースーするな。
こんなに長い時間繋いでられたんだから、十分すぎるくらい幸せなのに。
もっとを求めてしまう···欲張りだ、俺。
モソモソ着替えて、荷物をまとめて。
それでもまだ右手がさみしくて。
思いきって自分から翔ちゃんの手にそっと自分のを重ねてみた。
翔ちゃんがびっくりした顔をしたから、もういやかなと心配になる。
もう帰るだけだから手を繋ぐ理由ないもんね。
でも···でも···
「あのね、あとちょっとだけ···繋いでていい?」
嫌そうならやめようと思って、そっと翔ちゃんの表情を伺う。
優しい笑顔が見えたから、重ねた手にちょっとだけ力を入れたら
「もちろんいいよ」
翔ちゃんも握り返してくれた。
「やじゃない?」
「カズと手を離して左手がさみしいなって思ってたから嬉しいよ」
翔ちゃんもさみしかったって。
本当かな?本当なら嬉しいな。
「俺も右手がさみしかった」
目が合って、ふふっと微笑み合って。
ああ、きっと本当だって思えた。
翔ちゃんと同じ気持ち。
お互いの手をぎゅうって握りしめる。
暑くて汗ばんじゃうけど、さみしさはあっという間に消えた。
翔ちゃんはそのままバイバイするまでずっと離さないでくれて。
もう一度離した時はやっぱり少しさみしかったけど、心の中はあったかかった。