第9章 夏休み3
「何?」
カズがあまりにも神妙な顔をしているから、一体何を聞かれるのかと少し身構えていると
「あのね、翔ちゃん彼女いる···よね?」
「へ?」
想像してなかった質問に思わず間抜けな声が出た。
彼女?
突然すぎる質問に頭がついていかない。
「だってね、翔ちゃんみたいに素敵な人に彼女いないわけないって思うんだけど。毎日俺といるから、その···彼女さん大丈夫なのかなって···ずっと気になってて···」
モジモジしてるカズは可愛いけど、なんで急にそんなこと聞くんだろう?
「いや、彼女なんていないし」
「へ?いないの?」
今度はカズが間抜けな声を出した。
「いないよ」
「翔ちゃんモテるのに?」
「いや···でもさ、好きでもない人とは付き合いたいと思わないし。俺、今まで誰とも付き合ったことないんだよ」
「へ!?そうなの!?」
カズが目をまん丸くしてる。
あんまり驚いてるから
「うん···もしかして引いてる?」
ちょっと心配になったけど、カズはブンブンと首を振った。
「引くわけないじゃん!びっくりしただけ!」
しばらくびっくり顔をしてたけど、そのうち納得したように
「そっかぁ、翔ちゃん誠実だもんね。俺、翔ちゃんのそういうとこ好きだな」
ニッコリ笑ってそう言った。
急に飛び出した“好き”って単語にドキッとする。
どんな意味でもカズに好きだなんて言われれば嬉しい。
「翔ちゃん彼女いないのか」
なんだかカズの機嫌がすごく良くなった。
「カズこそ彼女いないの?」
「いるわけないじゃん。俺モテないもん」
ケラケラ笑ってるけど、カズはモテるんだよ。
俺が知ってる限りでは男にだけど。
相変わらずの自覚のなさにまた心配になるけど、俺が気を付けてればいいことだと思い直す。
鼻歌を歌い出したカズを微笑ましく見つめながら、この笑顔をずっと一番近くで守っていきたいと改めて思った。