第1章 恋に落ちる
駅前にはファミレスもファーストフードもあるけど、校則では寄り道は禁止されている。
そんなの守ってるやついないだろうけど、さすがに駅前だと先生に見つかりそうで、そのまま公園に入ることにした。
この公園には遊具がなくて、あるのはベンチと花壇だけ。
だからか、他には誰もいない。
通学路だけど、中途半端な時間だからか生徒の姿も全くなかった。
翔ちゃんが自販機で飲み物を2つ買ってくれたけど、お金は受け取ってくれなくて。
ベンチに座ろうとしたら、サッと軽く払ってから座らせてくれた。
行動がいちいち紳士的で。
翔ちゃんて誰にでもこんな感じなのかな?
俺、女の子じゃないんだけど。
でも他の男にこんなことされたら女扱いして
バカにしてんのかって腹立ちそうだけど。
翔ちゃんにしてもらうと、大切にされてるみたいで嬉しい。
なんかさ、さっきから自分の中にこんな乙女な部分があったのかと驚きの連続だよ。
「そういえば」
2人並んでベンチに座って。
俺は気になってたことを聞いてみた。
「なんで翔ちゃん裏庭にいたの?」
なんであんな時間にあんな所にいたんだろう?
掃除の時間でもないのに。
「ああ。俺、今日日直でさ。日誌届けに行ったらアレコレ雑用頼まれちゃって」
翔ちゃんが苦笑いする。
「ゴミ捨てまで押し付けられて、ゴミ置き場に行ったんだ。そしたら声が聞こえて···気になって見に行ったんだよ」
フッと真顔になった。
「行って良かった。カズを助けられたから」
真剣な眼差しにドキドキする。
すごい偶然だったみたいだけど、翔ちゃんがいてくれて本当に良かった。
もしもあの時
翔ちゃんが来てくれなかったら···
さっきの恐怖心と気持ち悪さが甦ってくる。
「翔ちゃんが来てくれて本当に良かった···もし···もし翔ちゃんが居なかったら···」
その先を想像してゾッとした。
思わず自分で自分を抱き締める。
そんな俺の背中を翔ちゃんが優しく撫でてくれた。
もう大丈夫だよって言われてるみたい。
「先生に感謝しなきゃな」
俺の気を逸らすためかな。
翔ちゃんが明るい声を出す。
「ゴミ捨てなんてめんどくせーって思ったけど。おかげでカズと友だちになれた」
本当に感謝しなくちゃ。
俺も心の中で先生に手を合わせた。