第8章 夏休み2
「俺が悪いんだ。カズから目を離して1人にしたから···ごめん」
自己嫌悪に押し潰されそうになっていたら、何でだか翔ちゃんに謝られた。
「しつこい男たちに絡まれてたって聞いた···怖かったよな···守るって言ったのに···ごめんな···」
慌てて体を離して見ると、翔ちゃんは自分を責めるような顔をしていた。
「翔ちゃんは何も悪くないよ!」
「いや、俺が悪い···ごめん」
「謝んないでよ···俺が勝手なことしただけなのに···」
また目の奥が熱くなって涙が溢れてくる。
「カズ、ごめんな」
翔ちゃんはもう一度俺を抱き締めると、何度もごめんごめんと繰り返した。
「もう離れないから···だからカズも側にいてね」
「側にいていいの?」
俺が翔ちゃんの側にいていいの?
女の子じゃなくていいの?
まだ胸の中にモヤモヤが残ってた。
「居てくれなきゃ困るよ」
「なんで?」
「心配で禿げそうだから」
翔ちゃんの答えは予想してなかったもので。
もしかして少しふざけてるのかなと思ったけど、翔ちゃんは真顔だし至って真剣に言ってるみたい。
思わず頭の薄くなった翔ちゃんを想像しちゃったら
「······ぶふっ」
泣いてたのも忘れて噴き出してしまった。
「ちょっと!真面目に言ってるんだからね!」
「だって···ふふっ···きっと翔ちゃんは禿げてもカッコいいよ···ぶふふっ」
「笑っちゃってるじゃん!」
翔ちゃんが怒ってるフリをするから慌てて口元を腕で隠すけど、笑いはなかなか収まらない。
「もう!俺はまだ禿げたくないから!だからちゃんと側にいてよ!」
「ふふっ···うん」
翔ちゃんの目に俺が映ってて。
目を合わせて笑いあって。
それだけで、わだかまっていたモヤモヤは溶けたみたいに消えていった。
「約束だからね」
「うん」
約束する。
もう自分勝手なことしないから。
だから、翔ちゃんが居ていいって言ってくれる間は、側に居させてね。