第8章 夏休み2
ーMsideー
ニノがいない。
ビーチは広いし、人は多いし。
これ無理じゃね···?
こんな人混みの中からたった1人を見つけるなんて不可能に思えてくる。
でも前を歩く翔は背中にまで焦りと心配を滲ませていて。
テントで待ってる方がいいんじゃないか、とは言い出せずにいる。
こんな翔を1人にするのもなんか不安だし。
それに俺だってやっぱりニノのこと心配だし。
途中で会った雅紀たちにもニノを見かけたら連絡するように頼んでおいた。
隣で同じく心配そうに眉毛を下げている智に小さい声で聞く。
「ニノが落ち込んでたって、翔がナンパされてたから?」
智は黙って頷く。
「やっぱりなぁ」
翔に絡む女子たちを鬼みたいな顔で睨んでたもんな。
そりゃ自分の好きなやつが、目の前で他人にベタベタされていたら良い気はしないだろう。
翔の態度も悪かったよなぁ。
今も声を掛けてくる子たちはいる。
でも翔はさっきとは別人のように冷たくあしらっていた。
ニノが心配過ぎて、余裕がないんだろうけど。
さっきもそうしてれば、ニノだって居なくならなかっただろうに。
小さくため息を吐いた。
「それでニノの機嫌が悪くなったんだ?」
「機嫌が悪いっていうか、怒ってはいなかった···なんか悲しそうだった」
「悲しそう?」
「翔ちゃんは女の子のがいいんだって、それが当たり前だとか言い出してさ」
「はぁ?」
確かに翔も煮え切らない態度を取ってたけど、それでも女の子がいいと思わせる感じはなかったぞ?
「俺にはそんな風には見えなかったけど」
「だよねぇ?俺もそう思うんだけど」
それでもニノにはそう見えてしまったのか。
もしかしたら普段から心のどこかでそう思ってるのかもしれないな。
自分は男だから女の子には敵わないって。
何だか切なくなった。