第1章 恋に落ちる
「全然いやじゃない!ただ友だちはみんなニノって呼ぶから···家族以外にカズって呼ばれるのが新鮮だっただけ」
確かに、大野くんや相葉くんにニノって呼ばれてるのを聞いたことがある。
「そっか。俺もニノって呼んだ方がいい?」
「ううん···櫻井くんにはカズって呼んでほしい。櫻井くんだけの呼び方」
えへへと可愛らしく笑うカズ。
俺だけの呼び方。
まるで特別だと言われているみたいで、くすぐったい気持ちになる。
「俺も。櫻井くんじゃなくて名前で呼んでほしいな」
俺にはアダ名なんてないし難しいかなと思ったけど。
もっと二人だけの特別がほしくて。
「···カズみたいに、カズだけの呼び方で」
ついワガママなお願いをしてしまった。
カズは一瞬えっと驚いた顔をしたけれど、すぐに真剣に考えてくれる。
「翔···翔くん···は、もう呼ばれてるよね···」
一生懸命悩む姿が愛しい。
カズはしばらく悩んでいたけれど
「翔ちゃん···翔ちゃんは?」
良いことを思い付いたと言わんばかりの表情で俺を見つめた。
「それは家族にも呼ばれたことないな」
カズの顔がパアッと明るくなる。
「じゃあ翔ちゃんって呼んでいい?」
正直、高校生にもなって、男がちゃん付けで呼ばれるってどうなんだと思う。
でもカズが呼んでくれる、カズだけの特別な呼び方なんて、嬉しくないわけがない。
「もちろん」
自然と笑顔が溢れてしまう。
「翔ちゃん」
「カズ」
無駄に名前を呼び合って、何だか恥ずかしくなって2人で笑った。
「カズの家はどの辺なの?」
さっき聞こうとしていたことを改めて聞く。
俺は電車通学で、何となく駅に向かって歩いてしまっていたけど、大丈夫だったか心配になる。
「俺の家はね、この道沿いに小さな公園があるでしょ?そこを曲がってちょっと行ったとこ」
その公園は駅の手前にある。
方向が合っててホッとする。
「近いね。羨ましい」
「だって距離で選んだんだもん」
カズがくふふと笑う。
「翔ちゃんちは?」
「うちはここから電車で5駅」
「電車通学なんだね」
学校から公園までは10分ほどで、そんな話をしていたらあっという間に着いてしまった。