第1章 恋に落ちる
「あの、今日一緒に帰らない?」
教室に戻る途中、勇気を出して誘ってみる。
突然の誘いに戸惑っているのか、二宮くんは目をパチパチしている。
「大丈夫だとは思うけど、もしかしたらまだあいつがいるかもしれないし···」
俺は断られる前にと、言葉を重ねる。
もちろん本当に心配しているんだけど、どこか言い訳がましく聞こえるのは、俺に下心があるからだろうか。
「その···俺が心配だから。二宮くんが嫌じゃなかったら、送って行かせて?」
だんだん声が小さくなってしまう。
「ダメ···かな···」
最後はちょっと情けない声になってしまった。
すると二宮くんは慌てて首を振る。
「ダメじゃないよ!···でも、櫻井くんにこれ以上迷惑掛けられないから」
困ったように眉毛が下がる。
「迷惑なんかじゃないよ。むしろ1人で帰らせる方が心配で落ち着かないよ」
二宮くんはしばらく考えていたが
「それじゃあ、お言葉に甘えて···よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて、小さく微笑んでくれた。
二宮くんと並んで歩く帰り道。
不謹慎だと分かっていても俺は夢見心地だった。
見慣れた通学路が輝いて見える。
「二宮くん···」
家はどの辺り?と聞こうとしたら
「ねぇ」
二宮くんに遮られた。
「その二宮くんってやめない?」
照れているのかポソポソと喋る。
「俺、櫻井くんと友だちになりたいから」
二宮くんの耳が赤い。
「名前とかで呼んでほしいな」
小首を傾げたそのあまりの可愛さに、俺はズキューンと心臓を撃ち抜かれた。
内心の動揺を表に出さないように、全力で表情を引き締める。
「いいの?嬉しいな」
俺にやけてない?大丈夫?
冷静にならないと。
「名前、和也だよね?カズって呼んでいい?」
カズと呼ばれた二宮くんは、ポカンとした表情で俺を見る。
何かダメだったのかな?
「嫌だった?」
調子に乗りすぎたかなと不安になる。