第7章 夏休み 1
ーOsideー
翔くんが見えなくなるまで、その場を動かずに見送り続けるニノに付き合った。
遠ざかる背中をじっと見つめて、時々翔くんが振り返ると嬉しそうに笑う。
何度も手を振り合っていて微笑ましい。
そんなニノの横で、俺は何となく···
全く振り返らない潤の背中を見ていた。
思い出すのはさっきの潤の言葉。
潤は何の気なしに言ったんだろうけど。
また飛び出した“好き”って言葉に、俺はドキドキしてしまった。
俺の絵のことだって分かってる。
同じことニノにだって言われた。
でもニノに言われても、嬉しいけどドキドキはしないんだよな。
何なんだろ。
ぼんやりしてたら、ニノが俺をじっと見てた。
いつの間にか翔くんたちの姿は見えなくなっていた。
「智さー」
「何?」
なんとなくニノが楽しそうだ。
「潤くんと何かあった?」
「は?」
潤と?何かって何?
「俺たちが美術室行く前は潤くんと2人だったんでしょ?何かあったんじゃないの?」
ニノがなんで突然そんなことを言い出したのか分からなくて戸惑う。
「何もないけど···」
「えー」
ニノは不満そうに口を尖らせた。
なんでそんな反応?
「ニノたちが来るちょっと前まで絵に集中してて潤がいることに気付いてもいなかったんだよ?何もなかったよ」
「絶対何かあったんだと思ったのにな」
ガッカリと言わんばかりの態度にますます意味が分からない。
「何かってなんだよ?」
「何かは俺にも分からないんだけど」
なんじゃそりゃ?
「だってさ、今日の智と潤くんいつもと雰囲気違ったんだもん」
「雰囲気?」
「なんかうまく言えないけど···智が潤くんをちょっと意識してるみたいに見えた」
そうだった。
ニノは周りをよく見てるやつで。
頭の回転も早いからやたら鋭くて、人のことにはよく気付くんだよ。
自分のことには鈍いくせにさ。
まぁ、それは自分に興味がないからっぽいけど。