第7章 夏休み 1
人気の少ない校舎を通って美術室へ。
一応ノックするが反応がない。
···誰もいない?
そっと扉を開けてみると、中には1人キャンバスに向かう智がいた。
「智?」
声を掛けても反応がない。
近付いてみると、ものすごい集中してるのが分かった。
黙々と筆を走らせる智は、たぶん俺が来たことに全く気付いていない。
···何描いてんだろ?
覗き込んだキャンバスに描かれていたのはどこか抽象的な絵で。
残念ながら俺には芸術センスも知識もないから全く分からない。
ただすごく綺麗だと思った。
絵が。
それと絵筆を握る手と。
あと、智が···
すごく綺麗だと思った。
智なんていつもボーッとしてるか、ふにゃふにゃ笑ってるかなのに。
キャンバスに向かう横顔は本当に綺麗で。
普段見ることのない真剣な眼差しに、不覚にもドキッとしてしまう。
このギャップはズルい気がする。
白状すると···
翔がニノに一目惚れした時、正直俺は隣にいた智のが可愛いと思った。
好みの問題なんだろうけどね。
可愛いとは思ってたけど、こうして見るとすごく整った顔をしてることに改めて気付く。
適当に椅子を引っ張ってくると、智の横顔と絵の両方が見える位置に座る。
俺は智の集中力が切れるまで、飽きることなく智を見つめ続けた。