第1章 恋に落ちる
気付いてしまった。
いや、本当はちょっと気付いてた。
だから抱き締めてほしかったんだ。
俺、櫻井くんを好きになってしまった。
一瞬で恋に落ちたんだ。
たぶん助けに来てくれた瞬間に。
まるでベタな少女漫画みたいだ。
ピンチに現れた王子さまに恋するなんて。
昔姉ちゃんに借りた漫画を思い出す。
読んだ時は、こんな都合の良いこと現実にあるわけないじゃんて思ったのに。
漫画みたいなことが本当に起こるなんて。
こんなに簡単に人を好きになるわけないって、あの時バカにしたヒロインの気持ちが分かってしまった。
ヒロインって···俺、男なのに。
櫻井くんは人気者で、いつだってみんなの輪の中心にいた。
かっこよくて、頭良くて、性格良くて、その上お金持ちで。
ひねくれてる俺は、なんか胡散臭いって思ってた。
漫画じゃあるまいし、そんな出来すぎたやついるのかよって。
学園の王子さまとか呼ばれてるのも、何それって思ってたけど。
本当に王子さまだった。
すごくキラキラしていて眩しい。
この短時間でも、優しくて誠実な性格なのが分かった。
ちゃんと話したこともないのに、勝手に悪く思ってた自分が恥ずかしい。
「うん···もう大丈夫」
また小さな声しか出ない。
それでも伝えなくちゃ。
「助けてくれて、ありがとう」
しっかり目を見て言えた。
何かを確認するように、俺の目をじっと見つめた櫻井くんは、安心したように笑ってくれた。
その綺麗な笑顔につられるように、俺も少しだけ笑うことが出来た。