第1章 恋に落ちる
ものすごいタイミングで現れた彼は、キラキラ輝いて見えた。
こんな状況なのに···
いや、こんな状況だからなのか?
彼の姿を見た瞬間心臓がドキンと鳴った。
胸のトキメキに戸惑いつつも、一瞬恐怖を忘れた俺は
いやいや王子さまって!
と、自分で考えたことに突っ込む。
「二宮くん!?」
現れたのは同じクラスの櫻井くんだった。
櫻井くんは目の前の状況に驚いた顔をしたが、すぐに近付いてくると、バリッと丸山くんを引き剥がしてくれた。
そのまま俺を庇うように前に立ってくれる。
丸山くんの視線を遮ってもらえて、ほんの少しだけ力が抜けた気がした。
「何してんの?」
櫻井くんが丸山くんに、きつい声音を向ける。
突然現れた櫻井くんに丸山くんは呆然としていたが、声を掛けられてハッと我に返ったようだった。
櫻井くんの後ろで震える俺に気付くとサーッと青ざめた。
「···ごめんっ!ごめんっ、二宮くん!」
土下座しそうな勢いで頭を下げられる。
「俺···俺、こんなことするつもりじゃなかったんだ!気持ち伝えたかっただけで···でも二宮くん目の前にしたら、何が何だか分からなくなって···」
その目に涙が浮かぶ。
どうやら猛省しているらしいのは伝わる。
でも泣きたいのはこっちだ。
「どんな罰でも受けるから」
頭を深く下げたまま、肩を震わせている。
そんな彼を櫻井くんの肩ごしに見ながら、あまりうまく働かない頭でぼんやりと考える。
罰って何?
学校に、警察に、被害届けでも出せって?
男なのに男に襲われかけましたって?
···そんなの無理。
こんなこと、誰にも知られたくない。
忘れたい。
「罰なんていいから。誰にも何も言わないで」
何とか絞り出した声は小さくて、笑っちゃうほど震えていた。
それでも丸山くんにはちゃんと聞こえたらしい。
顔をあげて、こちらを向いたのが分かった。
「俺も忘れるから···だから忘れて」
どうしても視線をあげることが出来ない。
ただ意味もなく地面を見ていた。
丸山くんはそんな俺をしばらく見つめた後
「本当にごめん」
もう一度深々と頭を下げて、そのまま去っていった。