第17章 理由
『やめて、大我。』
「一花!なんでここに!?」
『何でもいい。とにかくその手を離して。』
俺の好きな凛としたあの目で力強くそう言われる。
離さざるを得なかった。一花の意思は何よりも尊重したかったから。
「…分かった。」
胸倉からそっと手を離し広瀬に軽く謝る。
広瀬は未だに驚いたように固まっている。一花はそんな広瀬の元へと車椅子を進め、その手を掴む。
『芽美、もういいの。』
「…離してよ。」
『もうこれ以上自分を責めなくていいんだよ。』
「離してよ!!」
ガシャン!!
広瀬が無理矢理手を離したせいで一花が車椅子から倒れる。
「一花!!」
『来ないで。このままでいい。』
「……分かった。」
一花は床を這いつくばって進み、広瀬の元に腕で自分を支えながら座る。
『芽美…。ごめんね、私のせいだったんだね。』
必死に片手を伸ばす。
『私が芽美を苦しめてたんだね。』
「…んで……のよ。」
『えっ?』
「なんで、怒らないのよ!!」
突然の大声に一花の肩がビクッと反応する。
「私、最低なことしたんだよ?」
『うん、そうだね。』
「私、最低なこと言ったんだよ?」
『うん、そうだね。』
「なら、どうして!…どうして殴らないのよ。」
とうとうポロポロと泣き出した広瀬。
早く一花の元へ行きたかったけど、そっと見守ることにした。
『大切だから、芽美のことが。』
「…えっ?」
『私は芽美も大我と同じくらい大事なの。だから、ずっと一緒にいて欲しいの。』
「…一花。」
『こんなことで決裂するほどヤワな仲じゃないもん、私たち。だって5年間だよ?5年も一緒にいるの、喧嘩しないほうがおかしい。それがたまたま今回だっただけの話。』
「…で、でも。」
『私たちお互いに遠慮し過ぎてたんだよ。これからは本音でぶつかり合える友達になりたい。』
もう一度広瀬に向かって手を伸ばす一花。
「私、一花をたくさん傷つけた。…それでもいいの?」
『私が一緒に居たいんだよ。』
それはどこか懐かしい響きを帯びた言葉だった。