第13章 亀裂
私は今何を見たの…?
二階のリビングで大我を待っていたが、あまりに遅かったのでお店の方まで様子を見に行った。
厨房に繋がる扉を開け、中を覗けば大我と芽美が何か話している。二人に声を掛けようとすると突然芽美が大我に近づき大我のモノをズボン越しに撫で上げた。
見ちゃダメ
頭では分かってた。それでも目が離せなかった。
たった一瞬の出来事だったのに頭からこびりついて離れない。
二人は密かに想い合っていたのか。
頭が混乱し、上手く物事の判断ができない。
欲を持った男と女。しなやかに触れ合う二人をお似合いだと思った。
『はぁっ、はぁっ…!』
息が苦しい。
大我が私にくれた愛は偽物だったのか。私しかいないと言った言葉は嘘だったのか。もう分からない。
ふと顔を上げると二人のシルエットがぼんやりと見えた。熱い涙の粒がポロポロと頬を縫って落ちる。
大我が芽美の胸元に手をやっている。
そうか。二人は求め合っていたのか。
触れ合える愛を、繋げて愛し合う幸せを。
私が大我にしてあげられないことを。
激しい嫉妬と悲しみの中にどこか腑に落ちたような感覚があった。
歩けない、お風呂にも一人じゃ入れない、着替えだってままならないし、セックスもできない。
こんな女誰が愛してくれる?
捨てられて当然だ。こんな役立たずでお荷物な女。
愛する人の負担にしかなれない女。
止まない自己嫌悪を引き連れてエレベーターに乗る。
二階に着き玄関のドアを開けトイレに向かう。
トイレに滑り込むと、そのまま一気に胃の内容物を嘔吐した。
心臓が張り裂けそうなほど鼓動を上げ、前後不覚に陥っていく。ぐちゃぐちゃだった。涙と鼻水と汚物が一緒に溢れ出して、嗚咽を漏らしながら便器を抱え込んだ。
吐くものが無くなってもすぐには立ち上がれず、便器を抱えたまましばらくうなだれていた。
嫉妬と悲しみに押し潰された私はゲロより汚かった。
「一花、ただいまー。」
そのうち玄関のドアが開く音が聞こえ、慌てて気持ち悪い口元を拭う。軽く口をゆすぎ、目が腫れていないか確認すると大我の元へと向かう。
『お帰り、大我。』
「おう。」
芽美と何してたの?どうゆう関係なの?
私の事はもう愛していないの?
聞きたい事はたくさんあったけど怖くて聞けなかった。