第13章 亀裂
広瀬はいきなり俺のモノをズボン越しに撫でてきた。
その手を弾き飛ばし、距離を取る。
「何で逃げるの?火神も気持ちよくなりたいでしょ?」
「うるせぇ、お前には関係ない。」
「関係ある。…私、ずっと見てきたもん。」
「…何をだ。」
「火神が我慢してる姿。あんな世話を焼かせる事しか出来ない女の何がいいの?」
今何つった…?
「お前、ふざけんなよ…?」
「ふざけてないよ。顔が良かったから?それとも、自分があんな風にした罪悪感から?」
顔がいい?罪悪感?…違う、俺は初めからあいつのことしか愛していない。
「俺が一花の側にいたいからだ。」
「嘘。セックスも出来ない女なんて、ただの不良品よ。そんな女にいつまでも縛られてるなんて、あんたが可哀想。」
不良品。
自分の愛する女がそんな風に言われて、腹が立たないわけがなかった。身体中の血液が一気に沸騰したみたいに、爪先から熱を持った。
今にも殴りかかりそうだった。
…だが怪我の後、元気のない一花を支えてくれた内の一人である事も事実だった。
広瀬の胸倉を掴み忠告する。
「うるせぇ、…いい加減黙れ。俺の事ならどうでもいい。童貞でもなんでも言えばいい。」
そこまで言っても、反省する気のない広瀬。
「だが…、一花の事を悪く言う奴は例えお前であろうと許さない。お前だって分かってるはずだ、一花を縛り付けてるのは俺の方だって事。」
そう言うと、少し罰の悪そうな顔をする広瀬。
「分かってんなら二度とあんな口聞くな。…分かったな?」
そこまで聞くと、広瀬は顔を背け自分の荷物をそそくさと取りに行く。
店のノブを掴み、最後にこう吐き捨てていった。
「いつか我慢できなくなる時が来るから。」
…さっきまでの出来事が嘘みたいに、沈黙が流れる。
今日の事は一花には黙っておいた方がいいだろう。無駄な負担はかけさせたくない。
ーそう思った俺が間違いだったのか…?