第12章 予感
厨房に入り仕込みを始める。
少し経ったくらいで、店のドアが開く。
広瀬が来たみたいだ。
「おはよっ、火神。」
「あぁ、おはよう。」
広瀬も厨房に入り、一緒に仕込みを始める。
しばらく無言で作業する。
今朝の一花の言葉が頭から離れない。
黄瀬と青峰はまだ来ないのか…。
「なぁ、黄瀬と青峰は…、」
「ねぇ、火神。」
俺の発言を遮って、言葉を発する広瀬。
「なんだよ。」
「火神って、童貞?」
…はぁ?
「なに言ってんだ、お前。」
「そのまんまの意味よ。ほら、どうなの?」
「そうだけど…、文句あんのかよ。」
「別に、可哀想だなと思っただけ。」
…こいつ、自分が何言ってんのか分かってんのか?
一花への悪口とも取れる言葉に俺はイラついていた。
「お前、それどういう意味だ。」
「だから…、」
カランコロン
「おはよーッス。」
「…はよッ。」
一触即発の雰囲気も二人が来たことによって、一旦無くなる。
「あれ?どうしたんスか?」
「別に何もないけど?」
「あぁ、何もねぇよ。さっさと始めようぜ。」
「なんか怪しいッス〜。」
「うるせぇよ、黄瀬。」
「なっ、痛いッスよ〜。」
青峰が黄瀬の頭を一発叩き、その場の空気が和らぐ。
それからは二人も仕込みを手伝ってくれ、あっという間に開店の時間を迎えた。
「そろそろか…。」
「ねぇ、火神。」
また、俺に声を掛けてくる広瀬。
「なんだよ。」
「私、さっきの発言取り消すつもりないから。」
「あぁ?」
「それじゃ。」
反省するつもりのない広瀬の態度にあんまりムカついたので、店のドアを少々乱暴に開ける。
その様子を青峰に見られているとは知らずに。