第12章 予感
朝ご飯を済ませ、そろそろ仕事の時間だ。
「じゃあ、行ってくる。」
『…。』
いつもなら笑顔で見送ってくれる一花が、なんだか浮かない顔をして見つめてくる。
「どうした?やっぱり体調でも悪いのか?」
『ううん。何もない。』
何もない事はない。俺は一花をなるべく怖がらせないように視線を合わせ、頭を撫でる。
「何でも思ってる事言ってみろ。話せる所だけでいいから。」
そうすると、静かに頭を頷かせ小さな声で話し出す。
『何か、嫌な考えが離れなくって。』
「嫌な考えって?」
『大我が誰かに取られちゃうかも、って…。』
なんだ、そんなことか。俺にとっては有り得ない話だ。
俺の側から一花が居なくなるなんて。ましてや、俺から一花の側を離れるなんて。
その気持ちが伝わるように、一花を優しく抱きしめる。
「大丈夫、心配すんな。俺は離れろって言われても、一花のそばにずっと居る。一花を手放す気もない。だから安心しろ。」
『うん…。』
一応納得はしてくれたものの、未だに暗い顔をする一花。
『気をつけてね、大我。』
「おう。行ってくる。」
『いってらっしゃい。』
軽くキスをして、厨房に向かう。
一花があそこまで不安を露わにするのは珍しい。
…何もなければいいけど。