第5章 過去
一花side
ーー君はもう二度と歩けない。
その一言に、そこまで驚くことはなかった。
そんな自分に驚いた。
目が覚めた時から何となく分かっていた。
下半身の感覚がない。自分の身体だ、痛いほどよく分かる。
それよりも私は火神君の表情に驚いた。
罪悪感に塗れた顔。彼には、あまりにも似合わない顔だった。
『そうですか…。』
「辛いかい?」
『いいえ、それよりもこれからのことの方が不安です。』
私がそう呟くと
「その事なんだけどよ!」
火神君が、大きな声で反応した。
「俺ん家、来ねーか?」
びっくりした。火神君からこんな事を言ってくるなんて。
優しい火神君のことだ。事故の責任を持って私を引き取ろうと思っているのだろう。
だけど、彼に迷惑はかけられない。
「どうだ…?嫌か?」
『別に嫌じゃないよ?…けど、お断りするね。』
「どうして!?」
『火神君に迷惑をかけたくないの…。罪滅ぼしでそう言ってくれてるなら、なおさら。』
「ちがっ…!」
『何が違うの?』
「お、俺は、お前を…。三浦をこの手で守ってやりたいと思ってるんだ…!」
とても嬉しかった。私だって火神君に好意を持っていないと言ったら嘘になる。
だけど、どうしても頷く気にはなれなかった。
『ありがとう、火神君。…少し時間をくれる?考える時間を。』
すると、火神君は渋々と言った様子で
「…分かった。俺はいつでもオッケーだからな?」
『うん、ありがとう。火神君は優しいね?』
「う、うるせーよ///。」
本当に火神君は優しいな。
「クスッ。まぁ、二人でゆっくり話し合って決めてくれ。じゃあ、今日はこれで。」
短い診察も終え、先生が病室から出ていった。
『ありがとうございました。』
ここから、大我と私の距離は急速に縮まる事になるのであった。