第5章 過去
ー三浦が目覚めた。
しばらくの戸惑いのあと、俺はこう問いかけた。
「三浦…。目ぇ、覚めたのか?」
すると三浦は、そっと頷き
『うん、火神君。…ただいま。』
俺は、思わず大声を上げそうになった。
それは、三浦が目覚めた事への素直な喜びか、それとも自責の念から解放された開放感からか…、はたまたその両方か。
あの時の俺には分からなかった。
『何考えてるの…?』
そう言って、綺麗な瞳をこちらに向ける三浦。
なんだか俺の考えていることが恐ろしく、汚い物のように思えた。
「いや、何も…。おかえり、三浦…。」
俺が返事すると、心底嬉しそうな顔で三浦は微笑んだ。
「とりあえず先生呼ぶか。」
不思議と俺は落ち着いていた。
ナースコールで主治医を呼び、しばらくすると先生が病室に入ってきた。
「やっと、目覚めたか…。よく頑張ったね?」
『はい、ありがとうございます。』
丁寧にお礼を言う三浦。
『あの…、先生?私どれくらい眠っていたんですか?』
「一ヶ月と二週間ほどだよ。」
『えっ…。そんなに…!?』
三浦は酷くショックを受けたようだった。
「どうかしたのかい?」
『いいえ、何もありません…。』
何も無いはずないだろ。
だけど、今はそっとしておくことにした。
「それよりも一花さん、落ち着いてきいてほしい。君のこれからのことについてだ。」
ードキッ。
話すのか…、あの事を。三浦は、俺のことを憎むか。
そんな恐怖が胸を渦巻く。
『はい…。お願いします。』
やめてくれ、嫌な汗が背中を伝う。
「率直に言う。君はもう二度と歩けない。」
ーー君はもう二度と歩けない。
またこの言葉が頭の中をループする。
俺は三浦のために何ができる?