第19章 翌朝
『みんな来れるかなー?』
さっきから旅行のことしか考えていない一花を後ろから抱き締めながら、二人で湯船に浸かる。
「さぁな、でも黄瀬は確実に来れるんじゃねぇか?」
『ふふっ、なんかソレ失礼だよ。』
湯気が立つ浴室に一花の軽快な鼻歌が響く。
一花は身体に不自由があるから、どこへでも気軽に出掛けることが出来ない。
俺も色んな所に連れて行ってやりたいのは山々だが、最近は忙しくてそんな余裕も無かった。
だから相当嬉しいんだろうな。
『ねぇ、大我。』
「どうした?」
『温泉って、混浴あるかな…?』
一花は俺の補助なしでは風呂に入れない。
その事が急に不安になったのか、俺にそう尋ねてくる一花。
でも赤司の事だ。
そんな野暮なことはしないだろう。
「大丈夫だ。赤司はそんな事忘れたりしねぇって。」
すると、安心したように俺にもたれかかってくる。
『やっぱりそうだよね。…大我が居ないと私何にも出来ないから。』
少し弱々しくなる一花がいじらしくて、もう一度腕に力を込め直す。
「一花、そんなに不安になんな。俺だって一花が居ないと何も出来ねぇ。」
だからこそ俺は二人で支え合って生きていきたいんだ。
「何も考えなくていい。俺のそばに居てくれればそれでいい。」
『…大我。』
「お前が好きだ。…それだけじゃダメか?」
そう問い掛ければしばらくの沈黙の後、一花がモゾモゾと動き出す。
振り返って腕を首に絡ませてくる。
そして、俺の肩に顎を乗せ耳元で話し始める。
『私も大我が好き。だけどやっぱり不安になっちゃうの。普通の女の子ならもっと大我を幸せにしてあげられたんじゃないかって。』
それは一花の素直な本音だった。