第6章 因果
「ーー自己紹介が遅れたね。私は森鴎外と云って、ポートマフィア首領の侍医をしている者でね」
「えっ…??」
「ああ、そう驚かないでくれたまえ。こうして来たのも君の様子を見てくる様にポートマフィアに頼まれてね。気分はいかがかね」
「そうだったんですね…。気分の方は今は大丈夫です」
「今は、と云うと何かあったのかね」
「えっと……」
医者とはいえ初対面の人間に話すことは憚られた。とはいえ相手はポートマフィアに与する闇医者。話さない訳にもいくまい。優凪が掻い摘んで悪夢ーーもとい『記憶』を見た話をすると、成程と森は頷いた。
「若しや太宰君が記憶の封印を解いたのかね」
「そうですが…太宰さんとお知り合いなのですか」
「彼は自殺未遂をして私の所に担ぎ込まれてきた患者でね…それからの縁さ」そう云って森は肩を竦めた。
「じ、自殺未遂…??」
「そうだよ。尤も、君こそ自殺行為を働いたと聞いているがね。なんでも道端に子供1人で座り込んだり、ポートマフィアの1部隊を前に自ら進んで出てきたと聞いているよ」
「それは、そうですが…。そこ迄情報が渡っていらっしゃるのですね」優凪は微笑した。
「私の死にたがりなんて、ただ生きる理由がない、それだけです」
ぽつりと呟く様に続けた。
「生きる理由、かね」森が呟く。「君も太宰君も、相当風変わりだねえ。普通はそこ迄考えてはいまいさ」「そういうものなのでしょうか」「そう云う物だよ」ニッコリと森が笑った。
「優凪君。君に取引を持ちかけよう」
「取引……ですか」
「そうだとも。君を織田君の様な最下級構成員にする様に、私から首領に直接持ちかけてみるというのはいかがかね?」
優凪は目を丸くした。確かに織田作の立場なら殺しをする必要は無さそうだ。一緒に居たのは僅かだが、少なくとも織田作の周囲には人の生き死にがゴロゴロと転がってはいない。
それに何よりーーあの織田作さんの近くでなら、若しかしたら。今まで見つけられなかった、『何か』が見つかるかも知れない。優凪にはそんな予感があった。
だが問題がひとつ。
「取引という事は、私からも何か差し出すのですよね?ご覧の通り、些細な異能力以外なんの取り柄もない子供ですが」
「君の置かれた状況は知っているよ。その状況下でこれだけ冷静に大人と対等に話せるだけでも充分だね」
