第6章 因果
するとぽん、と優凪の頭の上に手が置かれた。
「ーーお前がもう少し大きくなったら、教えてやろう」
「…本当ですか!」パアッと優凪の表情が明るくなった。
もしかしたら気休めの言葉かも知れない。だが今の優凪からすれば、不確かでも『大きくなった時』なんて云う未来の話を自分が出来るのがこの上なく嬉しかった。
「ああ。」織田作は何度も頭をポンポンと軽く叩いた。
ポンポン、ポンポン、ポンポン、、、
長い。ポンポンが長い。
「ふふ……っ」余りにも長いので、優凪はまるで自分と云う赤子をあやされてる様で可笑しくなってきた。
「嫌だったか?」織田作がポンポンする手を止めた。
「いえ、寧ろその逆です」
「逆か」
「はい」織田作の手が降ろされた。右手は其の儘弧を描き、懐から1冊の小説を取り出した。
青い装丁が印象的な本だった。何度も読まれて来た証に、角は擦れ、表紙の文字は掠れ読みづらい。
「その本は何ですか?」
「俺の好きな小説だ」端的に織田作が答えた。
「そうなんですね」
「気になるか?」
「はい。好きな本って事は、もう読み終わった小説なんですよね?
そんなに面白いのですか」
「ああ。迚も面白い」云うと織田作は本の頁を捲った。
織田作が小説に熱中する様を見ながら、優凪はウトウトし始めた。先程まで眠っていたのは睡眠と云うよりは『過去の記憶』を見ていたに過ぎない。太宰からもたらされた自分には人殺しになるしか生きる道が無い事といい、考える事があまりにも多すぎた。
「少し寝ますね……」
「ああ。おやすみ、優凪」織田作が応じた。
「おやすみなさい……」
優凪は再び睡魔に従って眠りに落ちて行った。
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再び目が覚める。優凪が寝台から体を起こすと、スツールに腰掛け小説を読んでいた織田作が顔を上げた。小説の表紙は上巻から中巻に変わっていた。
「よく眠れたか」織田作が問うた。
「はい、お陰様でよく眠れました」にっこりと笑って見せた。
先刻とは違い、何も夢は見なかった。
人間とは不思議なもので、体調が悪かったりすると精神まで悪くしてしまう。要は身体と精神は深く結びついているのだ。
ぐっすり眠れたというその事実だけで、優凪は眠る前よりも落ち着いた気分になっていた。