第6章 因果
……何故だろうか。織田作さんと居るとどうも気が抜ける。此処がポートマフィア傘下の病院とは思えない位だ。
先程まで自分が殺しをした話をしていたのに、眉ひとつ変えずにこうして下らない話に付き合ってくれる辺りーーマフィアの人間らしい世間ズレしていると云うよりは、単に人間としてズレている気がした。勿論、良い意味で。
織田作さんと居ると不思議と落ち着く。そうも優凪は思った。
「あの」優凪は続けた。「織田作さんも殺しの仕事はやらないのですか?私が先程太宰さんに言われたみたいに」
「ああ」物凄く短い答えが返ってきた。
「……理由とかって、聞いてもいいですか?」今まで優凪が見る限りでは、織田作は相当戦闘慣れしている様に見えた。
その織田作を組織の何でも屋ーー乱暴に云って仕舞えば雑用係にして仕舞うのは心底勿体ない人事だと思われた。
「殺しをしないと云うよりは、出来ないだけだ」先程太宰が腰掛けていたスツールに織田作も座った。
「そんな事……私と一緒に居た期間は短いですが、そんな事無いと思います」少なくとも私よりは、と優凪は付け加えた。
「そう見えるのか」織田作は眉ひとつ動かさず云った。
「何か……信念みたいなものでしょうか」再度、優凪が問う。
「そんな大層なものじゃないーーただ、」織田作はそこで言葉を区切った。其処から先を云っていいものかどうか悩んでいるーーそんな雰囲気だ。続きを聞き漏らさまいと優凪は耳に神経を集中させた。
「ただ、殺しをしたら夢が叶えられなくなると思っただけだ」
「……夢、ですか」
「嗚呼、大した事は無い夢だ」織田作はそう云ったが、本人に取っては重要な事なのだろう。それ以上の事は語らなかった。
「色々聞いてすみません。ーーもし、もしもの話ですが」
「何だ」
「いつかまた機会があったら、その夢について話してもらえませんか?ーー織田作さんにはお世話になってばかりですし、何か力になりたいです」其れは素直な想いだった。
「そうだな……」珍しく織田作が言い淀んだ。余程差し出がましい願いだったのかもしれないと思い、優凪は慌てて続けた。
「あっ、無理にとは言いません!!無理にとは!!」
何故だろう。繰り返せば繰り返す程嘘っぽくなっていく。
優凪は自分の話術のなさを恥じるように俯いた。