第6章 因果
「君にかけられた異能力は、『記憶を思い出しにくくさせる』其の程度のものだったのだよ」
「確かに…そう考えれば辻褄が合います」優凪は成程と頷いた。
「織田作さん、太宰さん。先程まで見ていた夢で思い出したんです。ーー両親を殺したのは、私だと。」
優凪の言葉を聞いても2人は動じなかった。まるで初めから知っていたかのように。
「あと、犯人も分かりましたーーポートマフィアのとある研究員です。」
「矢っ張りね。さしずめその犯人が記憶を思い出しにくくさせる異能力の持ち主なのだろう?」太宰は思い通り過ぎて心底つまらない、と云う声音で云った。
「はい。ーー太宰さん。先程私の処遇は追って伝えると云っていましたがーー本当は私の処遇など既に決まっているのではありませんか?
ポートマフィア側は少なくとも実家で1度私を殺しに来ました。其の筈なのに私はこうして生き延びています。何故手のひらを返した様になったのかーー貴方なら分かるのではないですか」
優凪の言葉に、太宰は少々沈黙した。さぞ優凪の言葉に衝撃を受けて居るのかと思えば
「…うふふ」
太宰はくつくつと笑っていた。面白い玩具を見付けた、とでも云った所だろうか。そしてやっと優凪という人間が其処に居るのに気付いたかのように、目を爛々とさせて顔を上げた。
「決まっているよ。君はポートマフィアに強制加入させる積もりだよ」「私の選択肢は」「無いね。死にたいなら勝手にどうぞ、自殺方法なら善い参考本があるから貸そうかい?」
「…遠慮します」
「なあんだ、残念。善い自殺方法があったから感想を聞こうと思ったのに」
「死んだ時の感想なんて聞けるのか」其れ迄沈黙していた織田作が口を挟んだ。
「ん??嗚呼、其れもそうだねーー残念乍ら、私にはそんな力は無いよ」困ったなあ、と平坦な声で太宰は続けた。全然困っている様には聞こえない。
「君は生かした儘、ポートマフィア構成員にしたいーーと云うのが上の判断だよ」太宰はそう云うと、さてと、とスツールから腰を上げた。
「何処へ行く?」「僕の上司ーーいや違うね、『運命共同体』かな。その人の所に行ってくるよ」
「待ってください、太宰さん」優凪が太宰のぶかぶかのコートの裾を握り引き留めた。
「私はーー殺しからはもう逃れられないのですか」
「そうだよ」