第6章 因果
「「「「「止めて!!!」」」」」
太宰と織田作が優凪の病室に向かっていると、耳をつんざくような声がした。
「…矢張りね」太宰はなんの感傷もない声でぽつりと呟いた。
2人が病室へ入ると、其処には今まさに目が覚めたばかりの優凪が、はぁはぁと荒い呼吸をしていた。
まず両手を確認した。先程頭の中で繰り広げられた悪夢とは裏腹に、真っ白な手だった。迚も先程『両親を殺して紅く染まった』手には見えない。
次に両腕。こちらもなんともない。点滴も繋がれてない。
最後に室内をぐるりと見渡しーー太宰と織田作の姿を見つけて、やっと此処が現実だと確信した。
永い、永い夢だった。夢の中で一体何人の人を殺したのか、それすらも分からない程には永かった。
「大丈夫か」織田作が問う。「先程叫び声が聞こえたが」
「……はい。ちょっと悪夢、、いや『記憶』を見てしまっただけなので」心配を掛けてすみません、と頭を下げる優凪。
「矢張りね。私の読み通りーー君は過去の記憶を見たんだね」
「そうですが…太宰さんが触れた瞬間、頭の中が掻き乱される感覚がしたんです。…もしかして、太宰さんも異能力者ですか?」
「そうだよ」太宰はベッド横のスツールに腰掛けた。
「私の異能力は『人間失格』ーーありとあらゆる異能力を無効化する力でね。」其処に例外はないよ、と太宰は付け加えた。
「その異能は触れたら発動するのか?」織田作が尋ねた。
「ああ、そうだよ。逆に云えば、触れなければ発動しないとも云えるね」
「じゃあさっき私の頭を触ったのはーー」
「君の推測通りだよ。私の異能力で君に掛かっていた『記憶を消す』異能力を消した」
「ま、待ってください。記憶って1度消えたら戻らないのではないですか?」
「普通はそうだろうね。でも今回はそうじゃなかった。君がいちばん善く分かっている筈だろう、優凪ちゃん?」
太宰の言葉に、沈黙する優凪。
「記憶を引き出しの奥にしまっておくような物か」
「その通りだよ、織田作。記憶ーー1度体験したもの、其れも『殺しの記憶』ともなれば中々忘れられないものだろうからね。
其れに記憶は未知の可能性を秘めて居てね。昔、ある臓器移植を受けた内気な患者が元の持ち主の様に活発に明るくなった、なんて話すらある。要するに」太宰は其処で言葉を切った。