第5章 追懐
「え…??」
「端的に云うと、私は君のご両親に云えない秘密があったのだが、其れがばれてしまったのだよ。ご両親もまた、君に内緒でマフィアを裏切ろうとしていた。マフィアには君の両親を裏切り者として処す必要があるのだ。そして君にはご両親を殺せるだけの力が備わっている。ーー氷の異能力がね」
「は……??」当時は言っている意味が分からなかった。だが今なら分かる。今まで見せられた夢から察するに、この男は私の異能力を使って実験を行っていたのだ。そして其れが両親にバレたのだろう。
口封じ。
そんな言葉が脳裏を横切ったが、『過去の私』にはそんな事知る由も無かった。
「…………」
「驚き過ぎて声も出ない様だね。まあいい。ーーおっと、お早いお出ましだね」
ガチャリと音がして、間もなく両親が姿を現した。
「あ、貴方は…!!」父親が驚愕の声を上げる。
そして言い終わる前に、父母の胸に1発ずつ銃弾をぶち込んだ。
パンッパンッと音が鳴って、後には悶え苦しむ両親の声が残った。
「う、うう…」「痛い…なに…こ…れ…」
目にも止まらぬ速さで行われた殺人に、優凪は呆気に取られていた。ーーこれは悪い夢??いや、紛れもない現実だ。
絨毯の上を紅い液体がするする滑っていく。このままでは失血死してしまう。
「な、んで…??」両親に恐る恐る近づこうとしたその時、優凪の首根っこを『犯人』が掴んだ。首が絞まって苦しい。
「……う……」
「君もこうはなりたく無いだろう?」男は尚悶え苦しむ両親に銃口を向けた。2人の胸に2発ずつ。
「な…にし…て…「何って?さっき云った通りだよ。殺しだ」
男は優凪の首根っこを離した。肺に急速に酸素が送り込まれ、何度かむせた後、優凪は男をキッと睨んだ。
然し男は動じない。どころか平然としてニコニコ笑っていた。
「君がとどめを刺したまえ」そしてスーツの内側から小型のナイフを取り出すと、優凪に向けた。
「君の異能力なら容易い筈だ。さあ、やりたまえ。君も『こう』なりたく無ければね」
「そんな事言われても…異能力なんて私使った事ない…」
「いや、あるさ。君が《忘れている》だけでね」
其処で男の表情が無に帰した。
「……想像したまえ。君を粗雑に扱ってきた両親の胸に、ナイフが突き立てられる様を。」
「い、嫌です…!!」