第5章 追懐
「ああ」私は頷いた。
「あっそうそう、君がさっき僕がマフィアから借りた隊員達を倒した事に関しては不問だよ。何があったかは知らないけれど、優凪ちゃんを守る為にやったんだろう?彼女は真実を知る為の鍵だからね、寧ろ倒してもらって良かったよ」あっさりと太宰はそう言ってのけたが、10代の少年が数人の構成員の上に立つとは。余程才覚のある少年なのだろう。
「歳は幾つだ?」
「僕かい?12歳だよ」ニコニコして答える太宰。
「若いな」私は率直に思ったことを云った。
「そうだね。そう言う織田作は幾つだい?」
「俺か。俺は17だ」
「へえ、僕より5つ上か。……さて、そろそろ優凪ちゃんの所に戻ろうか、織田作??」
「ああ」太宰に背を向けて屋上入口に向かう織田作。
「君とは長い付き合いになる…そんな予感がするよ」
太宰の呟きは織田作に届く事は無かったが、後にその予言は当たる事になるのだったーー
******
此処は現実だろうか、それとも夢から醒めた夢なのだろうか。
もう何度目か分からない位、目が覚める夢を見た。
確かこういうのを明晰夢、と云うらしい。自覚なんて無く気軽に楽しめる夢だけを見たいものだが、どうもそう云う訳には行かないのが現実らしい。
今回目が覚めたのは病室ではなく、実家の居間だった。
ソファーでうとうとと眠っていたらしい。時計を見ると午後8時を指していた。
「そろそろ父さん母さんが帰ってくる頃かな」覚えの無い台詞が自然と出た。これも実際にあった事なのだろう。
暫くして、ドアがバタンと開いては閉まる音がした。両親のお出ましだ。身を強ばらせてその人物を待つと、其処に現れたのはーー
またあの黒髪に翠の瞳の男だった。今回は白衣では無く、スーツ姿できっちりとした印象だ。ポケットに入ったハンカチーフと言い、何処かパーティーにでもお呼ばれした様な出で立ちである。
優凪の姿を視界に収めると、男はあの笑っている様で笑っていない独特の笑みを浮かべて近付いてきた。
「こんばんは、#NAME#君。私はポートマフィア所属の研究者でね。今日は君に頼み事があって来たんだ。」
「マフィアの方…??」また自然と言葉が出た。明晰夢とはいえ、夢を見ている自覚が有るだけで発言内容迄はコントロール出来ない様だ。
「そうだよ。実は君のね…
ご両親を殺して貰いたいんだ」
