第5章 追懐
そう思いつつも、手持ち無沙汰な優凪は傍に置いてあった手紙を手に取った。学校からのプリントだった。
どうやら何時もの様に倒れて入院したらしい。クラスメイトからの連絡事項には早く良くなってね、と一言書いてあった。
最も、いつも倒れるのは原因不明の病の為良くなるかすらも不明なのだが。
そう思いつつも、プリントをたたみ元の机の上に置いた。傍には花も置いてある。気分が少しでも晴れる様にとの配慮だろう。
他には何かないか。机の上を漁ると、国語の教科書が出てきた。
栞の挟んであるところが今の学習内容なのだろう。
暇つぶしに読もうとしたが、不思議な事に読めないのだ。
そこで初めて、嗚呼、これは夢なのだーーーと気がついた。
夢ならば何をしてもいいだろう。
そう考えた末に、優凪はベッドから下りると点滴台を掴んだ。ガラガラと音を立てて点滴台ごと移動する。
集合部屋もあるのに個室に運び込まれている所を見ると、流石に院長の娘として扱われているのを感じる。ちらりと個室の中を一瞥して、病室を後にした。
病院なら誰かしらがひっきりなしに移動しているだろうに、不思議と廊下はしんと静まり返っていた。
ガラガラ、ガラガラと音を立てて点滴台が動く。何となくぶらぶらしていると、ふと会話が切れ切れに聞こえてきた。
「…今日も大変よね」
「ああ、またあの子倒れたんでしょ?」
会話のする方へ近づいていく。細く開いたドアの隙間から中を覗くと、休憩中だと思われる看護師2名が菓子を手に会話に興じていた。
恐らくここはナースの休憩室で、2人は専ら休憩中…といった所か。
「あの子、変よねぇ…原因不明なんでしょ?」
「それなのよねぇ。噂なんだけど…」
看護師2名が顔を寄せる。一方の看護師がえっ、という顔をした。
「それ本当!?じゃあ人殺しじゃない!!」
「シーッッ!!声が大きいわよ!!2人は辺りをキョロキョロした。
……これってもしかしなくても私の事だろうか。人殺し?私が??優凪は心臓をバクバクさせながら耳をそばだてる。
「なんでも人体実験の失敗作を殺してるらしいわよ…」
「いやあねぇ…本当マフィアの尻拭いなんて…」
そこで2人の話題は別の方向に花が咲いた。
どうもこれ以上は話を聞けそうにない。
優凪がため息をついて振り向いた瞬間だった。