第5章 追懐
「つまり、君の両親は君の異能力ーー仮に氷の能力としようか。
この異能を知られれば、きっとマフィアに連れてかれてしまうーー
その事を危惧していたんだろうね。だからこそ、隠蔽した」
そしてその結果がこれだよ、と太宰が指さした先には一枚の写真ーーリビングに未だ残るおびだたしい血痕の跡だった。
ーーあの、数々の悪事に手を染めてきた両親が、守った??私を??本当に??
「……信じられない、と云う顔をしているね。でも事実だよ」
優凪の顔を覗き込みながら、太宰が言った。
「はい、信じられません。だって両親は…」
そこで言葉を呑んだ。ポートマフィアと手を組み、病院としての機能の他にも人体実験なども行って居たはずだ。何より、自分は『出来損ない』の後継者として扱われてきた。
両親から当たり前に与えられる筈の愛情など無かった。
無かったーーーはずなのだ。
ぐらり、と視界が揺らいだ。目眩だろうか。
すかさず織田作が優凪の頭部を支えた。
「ありがとうございます」
多少ふらつきつつも、元の体勢に居直った。
「もうひとつ、君の両親について伝えたい事があるのだけど…君も目が覚めたばかりだし、この辺にしておくよ。今後の処遇についてはまた追って連絡するよ」
暫くゆっくり休みたまえ、と言い太宰はぽんと優凪の頭に手を置いた。その瞬間ーー何故だか分からないがーーー
頭の中が掻き乱される様な感覚がした。
病室には優凪と織田作だけが残された。
織田作がベッド傍の椅子に座った。
「具合はどうだ」
「そうですね……」
言い様のない気分の悪さと、先程の太宰の言葉だけが胸にしこりのように残っていた。
言い淀んだ優凪に、そうか、と織田作は相槌を打った。
織田作の持ってきた袋の中を覗く。中には色とりどりのお菓子があった。
「具合が良くなった時にでも食べてくれ」
「ありがとうございます。…少し眠いので、眠ってもいいですか?」
「構わない」
再度お礼を言い、優凪は眠りについた。
******
「あれ、ここは…」
ふと気がつくと、そこは見慣れた橘総合病院の病室だった。
「さっきも居たような…??」
だが不思議と先程までの様にただベッドに横倒しになっているのではなく、点滴が繋がれていた。こんなもの、ついていたっけ。