第5章 追懐
織田作が枕元に歩み寄る。
「目が覚めたのか」
「はい」
「良かったな」ぽん、と優しく頭に手を置かれる。
織田作はベッド横のテーブルに抱えていた紙袋を置いた。ちらりと見えた中身は大量のお菓子だった。
ささやかな優しさに胸を打たれていると、不意に太宰が口を開いた。
「ところで君、優凪ちゃんだっけ?状況は分かってる?」
「え…いえ…」
「君は正直だねえ。単刀直入に言おう。
……君は『異能力者』だ」
ーーーー異能力者。私が?あの?
「信じられない、という顔をしているね。無理もない、君はまだ異能の制御が出来ていないからね。相当危機に陥らないと発動しない位だ」
「嘘じゃ、ないんですか」
「”見た”だろう?君も。あの冷気の刃を。ーー恐らくは水、或いは氷の能力者、といった所かな」
「うそ…」
「飲み込みが悪いね、君」
太宰は笑顔だった。表面上は。
ただし其の笑顔はーーまるで先程優凪が発動した刃同様のーー見る者の頬にひたりとナイフを押し当てる様な冷たさがあった。
「君のご両親はね、マフィアに対して君の其の異能力を隠し通してきたのだよ」
カツカツと靴音を立て、太宰がまるで事件の真相を語る探偵の様に室内をグルグル周り始めた。
其の様子を織田作は僅かに目を細めて注意深く見詰めていた。
「之はマフィアからしたら立派な裏切りだ。ーーポートマフィアには異能力者が多数所属するのは知っているね?」
反射的にこくり、と頷く。
「マフィアに協力する者とも成れば、有能な構成員に成りうる異能力者が身内に居るなら、差し出すべきだ。ーーけど、君のご両親はそうは思わなかった」
其れがこの結果さ。
太宰は歩むのを止め、両手を天に向け大きく広げた。
「マフィアの報復方法は知っているかい?」
「いえ……」
「嘘だね」
「もうその辺にしておいて貰えるか」織田作の低くも通る声が唸った。
「マフィアの裏切り者への報復はーー
胸に三発、銃を打つ。顎を砕く。そうやり方が決まっている」
「うん、流石は最下級構成員にして超有能な益荒男くんだ」
その通り、と呟きながら怠そうに太宰が頷いた。
「僕は君に答えて貰いたかったのだけどーー橘優凪ちゃん?」
「よせ」
織田作の制止が入るも、太宰はなお言葉の応酬を止めない。