第10章 〜九十九を祀る社の巫女〜
「すいません、今は仕事中ですしご遠慮願います。ここでは特別に雅号を使っていまして、よろしければ是非に『お涼』と呼んでください」
「ホォー…お涼さん、ですか?」
「はい。それから名前を尋ねる時は、先に自ら名乗った方が良いです。加えて余計な事でしょうが、女性相手に甘言を向けると勘違いされます。距離感を大事しないと誤解が生じますよ」
「……っそうですね。お気遣いありがとうございます。少し不躾でしたね、私は沖矢昴と言います」
「えっと、昴さんはボクの知り合いだから!ちょっとフレンドリーなだけで、性格悪い人じゃないよ?」
麻衣が警戒を露わに接する発言を聞いて、すぐさま沖矢は言動を改めると名乗った。コナンも咄嗟に補助へ回り、すぐさま大丈夫だと彼女を説得した。現に彼らは危害を加える悪意を一切持っていない。後に協力を仰ぐための布石を打ちたいだけだ。良好な関係を築ける最初の一手。目に見えて焦るコナンは、「そ、それよりさ…!」と話題を別に移した
「今日はお姉さんと一緒に男の人達いないの?」
「…いますよ。今は別行動ですぐに此方へ戻ってくるでしょう。ですが、坊やは少し気まずい思いをしそうですね」
「え…?」
麻衣の言ったコナンが気まずい相手。それはつまり、二度の出会いで見かけたうちの誰かか。その予測が立ってしまうと、少年は思わず笑みを引きつらせた。まずい。このまましつこく粘ったとして、仲良くなるどころか沖矢の印象が更に悪くなる。そう考えたコナンが、何か言おうと口を開きかけた時だ
「……ふーん、新しい参拝客かと思えば。いつかの子供とお連れ様じゃん」
「あぁ、わらべのほうはおぼえてます!きっさてんにいたときですよね!」
「あ、清光……それに、いまつるが如何してここに?」
「(おいおいっ…この人達って、最初に出会った時の護衛の一人と子供じゃねぇか!)」
最悪の予想が当たってしまった。それに愕然となって硬直するコナンの隣で、僅かに強張った顔の沖矢が冷や汗を流した。如何せん麻衣はまだ警戒しつつも淑やかに振る舞う穏健派だが、護衛の明からさまな喧嘩腰は大変居心地悪い。何故だか全てを見透かされてる様な、妙な感覚になるのだ。するとコナン達の心境を知ってか知らずか、今剣がぷっくり頬を膨らませると不機嫌そうに麻衣の腰に抱きついた