第10章 〜九十九を祀る社の巫女〜
麻衣が靡いた髪を押さえ、ふと何気なく門を振り返ってみると。そこには、最近よく見る子供が自分に駆け寄る姿があった。四角い眼鏡と蝶ネクタイが印象的な少年、江戸川コナンである。
「あ〜、やっぱり麻衣お姉さんだった!ここの巫女さんしてるんだね!」
相応の無邪気な笑顔で麻衣に早速喋りかけた彼。同時に麻衣も、その少年から伸びる縁が異常に灰色で肥えた繋がりなのを見、「え…」と思わず小声で動揺する。透けて視えるは執着、自信、必死さ故の虚偽、獲物を睨む野心の眼差しといった隠れた本性。しかし以前と違って敵意がなく、かといって好意的な様子もない
「あぁ…、君はいつかの坊やですか?」
そう言って目を見開いて驚く彼女に、コナンがあざとく首を傾げた。一方で彼は、『自分が神社にいる事』を驚かれていると思っている。否、それもそれで間違いではないのだが。麻衣の敏感さなど知る由もなく、コナン達は彼女に接近した。遅れるように沖矢が少年の傍へ歩み寄る
「コナンくん、いきなり神社に入ろうなんて言うから驚きました。…おや?その女性は知り合いですか?」
「うん!」
「(何でしょう、違和感ばっかりです…)」
初めて出会う亜麻色の髪と眼鏡、ハイネックの服が特徴の男。見知らぬ人間とコナンの会話の最中、麻衣はその言動を訝しんだ。彼女の直感が二人を胡散臭い、警戒しろと叫んでいた。それはコナン達の表情、声、発言全てに思う。何故なら視えてしまったのだ。初対面である筈の男と自分に、相手が一方的に繋いだ因縁じみた意思と執着心。コナンとは碌な出会いじゃないため、彼の心境の変化や態度、見知らぬ連れの男の言動に違和感を感じた
「(……これは、何かを誤魔化してる?相手は野心で仲良くなろうと?)」
麻衣は審神者であると同時に、遥か昔から続く古い家系・榊家の一人娘でもある。審神者については刀剣男士の存在もあって政府が厳重に秘匿しているが、家業の方は比較すると重要性が低い。そして後者側の一面は警視庁でコナンに話している。コナンは子供であるし考えたくはないが、麻衣の実家の歴史や経済的な事情が目的か。あるいはもっと深層部か。疑い警戒するに越した事はない
「そうでしたか….。随分と若い巫女さんですね。お名前を伺っても?」