第31章 〜死人に口なし、されど語らう〜
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次の日、今度は別の場所で同じ状態になった女性の遺体が発見された。またも死因は胸を一突きにされた失血死、全身に暴行の跡と顔に刃物に突き立てられた生々しすぎる刺し傷達。そして死亡推定時刻は前日の晩、つまり犯人は連日犯行に及んだわけだ
そんなわけで事件はその日、ニュースとなって世間に知らされる事となる。警察は全ての地区の巡回、市民は夜間の出回りを禁止するなど、東都内での警備が強化された
お陰で夕方頃には外を出歩く市民は殆どおらず、ポアロも客足が途絶えて物悲しい雰囲気に包まれている。今や店内にいるのはシフトが当たった店員の安室と、心強すぎる護衛を従える麻衣と護衛の刀剣が一振りだけ
その刀剣は背丈が子供のそれだが、短くさらさらとした黒髪と大人びている顔立ち、そして日焼けを知らない真っ白な肌は人間離れた容姿だった。その者の号は薬研十四郎といい、粟田口派が打った有名な刀剣であり、織田信長が自害に使ったとされる切れ味が鋭い一品だ
「なるほどな。女人(にょにん)を狙った犯行か……。どおりで街の穢れと恐怖が濃ゆいわけだ、このご時世に惨い事をする」
「ええ。ですから貴女方の手助けを頂きたいんです。匿名のタレコミとして捜査一課に情報を流したく」
薬研の声は容姿の割に低く、言葉遣いも少々古めかしかった。
(後日、加筆修正します)