第10章 〜九十九を祀る社の巫女〜
「……それを作った術者は存命ですか?」
「いえ、既に他界した後でした。本人の自宅で遺体を発見しています。喉元をナイフで裂いた状態で死に、現場の状態からは自殺と処理されました」
「呪具を作る際に自ら犠牲になった可能性が高いですね…。対象を殺めるほどの効力となれば、よほどの怨念と代償が必要になります。対象と術者の関係性は?」
「同じ部署の同僚でした。普段から術者の方が、被害者の方にちょっかいをかけていたそうなんです。ずっと被害者は無視を続けていたらしいんですが、それが術者にとっては怒りを煽られたようですね。よくある仕事の良し悪しによる怨恨なのだと思います」
「ふーん、人間あるあるだね。逆恨みなんて意味ないのにさ、結構なブツまで作っちゃって…。別に処理は指定ないよね?」
「可能であれば呪具の器を残して頂きたいのですが…。破壊するのが最善な場合はそうして頂いて構いません」
男達と麻衣と清光が、そういった問答を淡々としていく。境内に参拝者がいないので発言も遠慮が一切無かった。麻衣も清光も事情を聞き入れ、物事の本質や人間の性を達観している。そうしてある程度話を飲み込むと、麻衣は男達から箱を受け取る。横から清光が蓋を閉じて紐で栓をし、更に箱を麻衣から貰った
「…分かりました、お引き受けします。確約は出来ませんが最善を尽くしてみましょう」
「ありがとうございます!」
麻衣の受託する言葉にホッと安堵した政府の男達。彼らも何かしら苦労をしているのだろう。清光が政府の役人達に哀れみの視線を送っていた。彼女達にすんなりと承諾をもらえた事で、男達の用件はあっさり終了する。「それではよろしくお願いします」彼らはそんな言葉を最後に、麻衣達と拝殿に一礼した後、大門の方へと去っていく。彼らの本来の職場に帰るのだ。すると、律儀に見送る彼女に対して隣から声がかかる。清光からだ
「……それじゃあ俺、呪具を浄化結界のあるお堂に入れてくるからね。すぐに戻ってくるよ」
「頼みます」
呪具を持っていた清光が、社の隣に位置するお堂へと置きに向かった。因みに浄化結界というのは、範囲以内で凡ゆる穢れをも祓う便利さを役立てる為に、麻衣が常に展開させるものだ。そこへ護衛を手放す麻衣に、再び凄い強風が吹き荒れた