第10章 〜九十九を祀る社の巫女〜
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車での移動は数十分を要した。神社から離れた位置に歩道沿いで停まる黒塗りのフーガの後ろに停めて、沖矢の引率のもと『九十九神社』へ歩いて行く。すると遥か彼方まで続きそうな古びた塀が見えた
「そこから真っ直ぐ向かいの民家で十軒、横に曲がって二十軒が榊家の私有地らしい」
「十軒?!!二十軒?!!普通の金持ちもそんな豪邸住まないよ?!」
度肝を抜かれる話だ。驚いたコナンが両目を見開いたまま、愕然となって沖矢を見やる。出来れば否定してほしかったコナンだが、無言で頷かれた。思えばこの真面目な状況で、嘘や冗談を言う男ではないのだ。それに事前の情報によれば、榊家の構造は九十九神社の後ろに実家とされる武家屋敷があると聞いている。塀で囲われた広大な敷地を想像するも、コナンは一人目眩を覚えて眉間を押さえた
「…とにかく行こうか昴さん」
「そうだな。出入り出来る門は五軒目にあるようだ」
「五軒目…」
沖矢の発言にまたも、コナンは表情を引きつらせた。既に何度も驚かされて、内心の疲労が酷いものだった───
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時間は少し前に遡る。九十九神社の大門を開けて暫くした頃、二人の黒いスーツを着た男達が何やら大きな木箱を持って参拝して来たのだ。男達が門を跨いだ瞬間、まるで何かを追い出す様な力強い風が麻衣と清光の間を縫って、向かい風となって男達に襲いかかる
「うわっ」「くっ…」そんな二人分の呻き声を聞くと、麻衣がハッとスーツの男達へ振り返って。そして、すぐさま顔を強張らせた。その一瞬で、清光が麻衣を庇う位置に立ち塞がると、護るために自らの背後へと隠してしまう。彼の男達への第一声は、軽蔑を孕んだものであった
「……よくもそんな『ゲテモノ』を此処に持ってきたね」
「か、加州清光様…。どうか我々政府の非礼と、穢れを持ち込む愚行をお許しください。巫女様のお力が必要なのです!」
清光の冷ややかな視線を浴びて、政府関係者らしき男達が冷や汗を流し、慌てながら麻衣達に平伏する。付喪神とて神の末席にその名を連ねる者達だ。更にそれらの主人に君臨している審神者。───言動と態度を一つでも誤り、神々の憤怒や怨恨で呪詛を受けたくない。男達は必死で謝罪し、一人と一振りに慈悲を求めた
すると、それに先に応えたのは麻衣だ