第10章 〜九十九を祀る社の巫女〜
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その頃、沖矢昴はこの日も榊麻衣の務める神社に行こうとしていた。自身が居候している工藤家を出て、愛車のスバル360に乗ると住宅街を走る。そのままコナンの居候先があった喫茶店ポアロの前に来ると、歩道に沿って車を停車させる。彼はハザードランプを着けてから、スマホで『江戸川コナン』に電話を入れる
『……もしもし、コナンくんですか?さっきポアロの前に着いたので降りてきてください』
『うん!分かったよ昴さん!』
すぐ繋がった電話で軽く言葉を交わすと、コナンが通話を切ってポアロの上にある家から階段を駆け下りてきた。そうして彼が愛車に乗ったら事を急く様に発進させる沖矢。運転しながら助手席で険しい顔をしているコナンを見やって話す
「すまないな坊や、榊麻衣とその護衛達が離れる瞬間が全く無かったんだ…。慎重になって懐こい子供のふりをすれば、彼らが一緒にいても無碍な扱いはしないだろう」
「うん、そうだといいけど…」
「…ホォー。坊やにしては随分弱気だな」
普段の推理や計画を建てる自信家な言動が今は微妙だ。口角を上げて揶揄う沖矢に、コナンが思わずムッとなって拗ねた
「だって、相手は僕の事を絶対警戒していて、尚且つ嫌いだって分かってる人達だよ?普通のSPよりも鋭い。盗聴器の事だって、護衛の人から忠告されただけで榊麻衣本人が知るか知らないか分かんないし。そんな人に媚び売り猫被りなんて通用しないよ。犯罪者っていうならともかくさ、一応宮内庁に勤める人だったんでしょ……?」
「ああ。しかし、ここで少しでも良い印象を持ってもらえれば、多少の変化を期待できる筈だ。踏み込む距離感と引き際が肝心だがな…」
「……うわっ、ホント簡単に言ってくれるよ」
沖矢に意地の悪い笑みで、我慢を強いる様に言われたコナンは、げっそりとした顔でいた。良くも悪くも積極的で直球な彼の性格はいつも、一度不審さや好奇心を抱けばすぐに条件反射で言動に出てしまう。それを我慢するのはきっと、コナンにとって至難の技に違いない
よもや探偵にとって長所であった箇所が、肝心な時に支障を来す一因に成り果てるとは。敵対する様な相手でないだけ尚更複雑な心境である。課題はあくまで仲良くなる事なのだ。付き合い慣れた周囲の人間達や、今まで出会ってきた知り合い達との違いを尽く感じさせられた