第9章 〜偶然か必然か、縁は導く〜
「えー…ではさっきも少しだけ伺いましたが、レストラン内でのアリバイをお願いします」
「アリバイと言っても特に何もないんだがな…」
「ああ。席を立った時は『せるふ』の水を汲みに行ったぐらいだぞ」
「そうですね…」
困った顔で三人が顔を見合わせる。鶯丸、大包平、平野の順番で喋っていた。すると近くの席で女性客達が、コクコク同意を示して頷いてくれる
「それなら何か可笑しな事はありませんでした?些細な異変でも良いし、見覚えがあれば周囲の席の様子も」
「それならいくらか覚えているぞ。確か───」
*
「良かったらお水どうぞ」
護衛達が捜査の協力で、高木と話している最中。ずっと口元を片手で押さえて俯き、席に座り続ける麻衣の前に水が入ったコップが置かれた。そしてどうぞ、という声に顔を上げてみると、麻衣はその人物に目を見開いて驚く
「えっと…貴女は確か喫茶店の時の…?」
「は、はい。毛利蘭って言います!あの時はコナンくんが本当にすみませんでした!」
驚いて呆然する麻衣に、水を差し出した人物───毛利蘭が、緊張で強張る表情で応えた。思わず語尾の声が裏返り、「あ…」と咄嗟に赤面して口を塞ぐ。そんな必死さを見ては話しかけ辛さを悟り、麻衣はハンカチの下で小さく苦笑した
「…そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ。既に済んだ話ですし、深く覚えてませんから。ですが、ありがとうございます」
「え?!いえ、そんな筈っ!そうなんですか…」
ここでまさかの麻衣から忘れた発言を貰い、思わず反論しかける蘭。本人があっさりしていて困惑したが、蒸し返すのも失礼だと思った蘭は素直に騙される事にしたらしい。すると意図が通じた事でホッと頬を緩めた麻衣が、今度は雰囲気を和らげるために自ら口を開いた
「そういえば、名乗っていませんでしたね。榊麻衣と申します」
「麻衣さん……。良ければまたポアロに来て一緒に話しませんか?安室さんと梓さん───店員さん達も『あれ以来こない』って気にしてるんです」
「え、そうなのですか?てっきり迷惑がられているとばかり…。来週の土日に立ち寄らせていただきます」
キョトンとしてそう言いながら、麻衣は気遣いに胸が温かくなった。頬が緩みそうだ。