第9章 〜偶然か必然か、縁は導く〜
本格的な調査はこの後に控えていた。そして、目暮は「ありがとう」と蘭達に伝えて、レストランの出入り口側の席を見やる。事情聴取は二番手がそこで、最奥へ順に回る手筈なのだ。しかし、───
「そこの刑事達、少しだけいいだろうか」
「……はい?」
不意で聞こえた、テノールの落ち着いた声に全員が振り返る。「あ!」女子高生達が揃って驚いた声を上げた。何とそこには、彼女達が悩みを抱く女性───麻衣の、同行者である男がいたのだ。どうやら四人のうち一人が、事情があって話をしに来たらしい。青年は髪と瞳が鶯色の美男で、柔らかなテノールが言葉を続ける
「すまないが、事情聴取の順番を変えて俺たちからにしてほしい」
「…それは何故か理由をお聞かせ願いますかな?何か困る事でもおありで?」
青年───鶯丸の申し出を聞いて、目暮が訝しげに問うた。すると彼は元来たルートを振り返り、注目する客達に一切目もくれず、入口側で最奥の座席を視線で示した。そこには、何と口元をハンカチで覆って俯せで座り込む顔色が酷い女性と、その背をさすったり手を握りしめる赤髪の青年、更に隣で焦げ茶色の少年の姿がある。その瞬間に全員が理由を察した
「あの三人は仲間なんだが、見ての通り一人が体調を崩していてな…。どうやら殺人事件を目の当たりして、気分を悪くしたようだ。事情聴取をさっさと済ませて家に帰らせてほしい」
「事情は分かりました。証明に時間がかかるのは予め了承願いますが…」
「構わない。俺たち全員、席から一度も立ってはいないからな。防犯カメラなり、周囲の客なり、すぐに証明できるだろう」
「………」
気遣わしげな目暮に対し、鶯丸はどこまでも落ち着いた態度でいる。殺人の現場でそういう態度は異様でしかなかった。彼から動揺も、 焦燥も余裕も感じず、唯一この場に在る探偵がそれに密かに怪しむ
しかし世良は、彼とその仲間たちが犯人でないと思っていた。密室による犯行なら兎も角、大勢の客達が集う場所では彼等の容姿で目立ってしまう。座席が遠く離れていた。移動してないのも、彼女を始め多くの人間が注目していて、確証のある事実である。不審な行為は一切なかった。殺人なんて不可能だった
ところが、それとは別の違和感が浮上したのだ。殺人の現場で、普通の態度を取れる一般市民がいる筈ない。探偵や警察にも見えない