第9章 〜偶然か必然か、縁は導く〜
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その後、メインの食事を終えた女子高生達が、追加の注文でデザートを頼んだ。それぞれ蘭が苺の、園子がブルーベリーの、世良がチョコレートのパフェを食べる。この時も会話に途絶える様子は見えず、尽きない話題で笑い合った。ところが、園子と蘭の意識が何度か、ある一点に注がれる。ソワソワしている仕草で、少し興味深げに見遣っていた
「……そんなに気になるなら、話しかければ良いと思うけど」
「ムリムリムリッ!!」
自らは接近を躊躇っていても、友人の背中を押してみる世良。しかし返ってきた彼女達の反応と言葉は、諦めと遠慮で千切れそうなほど首を横に振る「無理」表現だった。曰く、「相手が世間離れし過ぎて、緊張と気まずさで話にならない」と。あまりに必死の形相で主張するから、世良が思わず苦笑いになる。気持ちは分からんでもない。それでも、折角の機会だからと世良は、友人達にやんわり促す。絶対に大丈夫という妙な確信が彼女の中にはあった
「トラブルに決着はついてるだろう?ボクも一緒に三人で行くし、聞けば優しそうな女性じゃないか……。きっと誠意を持って向き合えば、仲良くなれると思うよ」
「そうかな…?」
「大丈夫かしら…」
そして、世良の優しい声音に励まされ、期待を持ち始めた蘭と園子。不安そうな表情だがその目は、前向きな意欲を感じさせた。それに目に見えて安堵した世良は、八重歯が特徴の満足げな笑顔で頷き返す
「ああ、頑張って一歩踏み込んでみなって!じゃないとこの先、ずっと後悔するかもしれないだろう?そんな思いはしてほしくないんだ」
「「世良さん……!」」
蘭達は友人の言葉で、ジーンと胸を熱く打たれた。感動のあまりその瞳を揺らし、二人が明るい気力に満ちた時である───
突如、店内に男性の絶叫が響き渡った
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麻衣達が来店してから暫く、店内の『空気の色味』が黒く変わった。元々訪れた時から黒に近い灰色だったが、現状は完全に無機質な黒だ。決して両目では見えず、感覚的に視る事ができる色味。それに、身の毛がよだつ様な不快感があった
何かを拒絶する様な頭痛や、喉から何かが這い上がって来る吐き気、そして何かが重く乗っかかる様な倦怠感と疲労。最早、レストラン内は『穢れ』ていた。加えて───
「ぐわあっ!」
ガシャンッ、と絶叫と共に食器の割れる音がする