第7章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 後編
「というと?」
驚いた顔から一変して今度は、不可解そうな表情になる麻衣。安室と護衛達が視線を向けて、言葉の解釈を求めた。因みに、この会話は刑事達に聞こえていないらしい。麻衣が遠慮がちに続けた
「……捜査の現場にいるという事は、警察の正式な要請ですよね?ならあの子がマスコミに出るのはおかしい、話を聞いてそう思いました。国家と国民を守っている警察は、協力者か探偵かギフテッドか分かりませんが、助力を貰った当然の対価としてその者を守る義務があります。メディアに顔出しなんてさせたら、何も仕事にならないうえに彼自身も危険が高まりますよ」
「…!!」
ヒュッ、と安室が息を呑んだ。良い意味で動揺を隠せなかった。この麻衣の歯に衣着せぬ台詞達で、思わずその目を見開いて驚く。まるで手放しに世間が賞賛している事を、正論でばっさり斬り捨てたのだ。良識がある子、という自分の印象に間違いなかったと思う安室。穏やかで淑やかな雰囲気の彼女だが、意外と厳しい意見を繰り出す強かな一面も持っているらしい。鶴丸が腕を組んでニヤリと笑う
「そうだなぁ…。ま、でも、本人達が自分で尻拭いすると思うぜ。協力者も探偵も国家機関から許可をもらって活動するだろう?それなりの頭脳と矜持はあるし、周囲も手放したくはないさ。…なぁ、安室殿?」
「あ、いや…。実は、コナンくん自身、探偵と名乗ってはいるのですが…」
何故か鶴丸に同意を求められ、僅かに言い淀んで応える安室。困ったように苦笑しながら、言葉の先を匂わせて黙った
別にコナンは根っから悪い子ではない。正義感が非常に強くて、大人顔負けの推理力を持ち、事件現場にも慣れている。将来有望な少年だ。しかし、それ故なのか好奇心も強く、自ら事件に巻き込まれる。何でも周囲に聞き回るせいで、機嫌を損ねた人達もいた。だが、何より一番問題なのは───
「……え?」
察した麻衣が驚愕のあまり、安室のことを見返した。すると同時に、隠し通路の傍にいた刑事達が「うわぁ!」と叫び声を上げた。四人が不意をつく大声に反応してバッと振り返る
「なっ?!」
「おい、君!こいつら寝てるぞ?!」
「ただの催眠スプレーです!」
振り返った先で、刑事達の体が重なる様に横たわっていた。直様、鶴丸と安室が駆け寄ると全員熟睡しているらしい。