第7章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 後編
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その頃───別行動で離れてしまっている、麻衣と護衛たちと安室は如何か。怪盗キッドが現れてから実に十数分が経過する中、逮捕ないしは進捗の報告も一切齎らされていない。彼らは小五郎の指示の通りに、他の場所にいた刑事達と合流し扉の前を見張っていた。すると、
「……ふむ。そろそろ『怪盗きっど』やらが、撤退を始めたようだな主。地下から騒がしい音がするぜ」
そう言って自身の隣に並んだ麻衣と、今剣に声をかけた鶴丸。この発言に麻衣達以外が黙って耳をすませてみた。そうしたら、微かな物音や激しい雄叫びが地下への通路から聞こえるではないか。驚いた刑事達が顔を見合わせ、次いで不安そうに扉の奥を見つめた
「……キッドは相当すばしっこいのですね」
「手品の腕が一流ですから…。怪盗ではなくマジシャンになっても、世界で有名になったかもしれません」
難しい顔で呟いた麻衣に、安室が微妙な面持ちで返した。傍で声を聞いたとはいえ、小声を捉えるとは大した聴力だ。「へぇ〜」と護衛達から声が上がり、キッドと安室に感嘆を漏らす
「じゃあ、だれもきっどのてじなをみても、やぶれなかったんですか?」
「いいえ、たった一人だけキッドの犯行を暴ける少年がいます。ほら、三人ともポアロに来てくださった時、関わった眼鏡の子供がいたでしょう?麻衣さんは警視庁でも会いましたけど、江戸川コナンという男の子です。キッドキラーって呼ばれるくらい世間じゃ有名なんですよ」
ご存知ないですか、と続けて今剣に安室が答えた。割と誰もが知っているので、説明が丁寧すぎたと思った。が、しかしそれを聞いた三人は、互いに顔を見合わせると同時に首を傾げる。まさか、と安室は目を丸くした
「……もしかして、キッドキラーを知らないんですか」
「はい」
「メディアも騒ぐくらい有名なんですが…」
「え、そうなのですか?!お恥ずかしいです!どうも世間の流行に疎くて…」
そう言った安室の躊躇いがちな台詞に、麻衣は素直に驚いていた。コナンの事はよく覚えている。何故か、初対面で喋った時からずっと、敵意と嫌悪を向けてくる子だ。好奇心も凄く旺盛で、詮索ばかり仕掛けてきた。魂が器に見合っておらず、厄介事を背負っている
「ですが、メディアに注目されるなんてあの少年は何です?」