第7章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 後編
そしてもう一度振り返って、銃の照準を追っ手達の足元に定める。バシュンッバシュンッバシュンッ。三発撃った。放たれたトランプは空気を裂くと、警察の足元の数m先で地面に鋭く突き刺さった
「うぉぉおお!」
「わわわっ?!」
「いやぁぁああ!!」
「のぉぉおおお!!」
バタバタバタッ。激しい物音が空間に木霊した。人数分だけの悲鳴が上がり、積み重なって倒れる刑事達。(尚、一部女性の様な甲高い悲鳴が聞こえたが、その犯人は最後尾の小五郎だった。彼は時々妙な悲鳴を上げる事があり、全員がスルーして無かった事にしている)
それを見たキッドが「ヘへヘッ」と笑った。してやったり、という愉快な笑顔でそのまま奥へ逃げていくのだ。だが刑事達は押し潰し絡まり合う仲間に、慌てふためき混沌とし続ける。その為、篝火に照らされたキッドの背中を、「クソォォオ!」と叫んで見送るしかなかった───
*
それから暫くの後。刑事達を見事に足止めし、颯爽と家宝の元へ向かったキッドは、終着点に辿り着いた。およそ100坪ほどある大きな広場で、中央には小ぶりの煌びやかな舞台。その奥側に台座があって左右の篝火が鮮やかに照らす。家宝と思しき瑠璃色の宝石が、灯火に負けない輝きを放って神々しくも鎮座していた
「へぇ〜、あれが榊家の家宝……。【神々の慈愛(アフェクション・オブ・ゴッド)】なのか。血筋の存続と加護の形として、神世の時代に経津主神(ふつぬしのかみ)が榊家に与えたとされるモノ。神からの寵愛と国家権力の証……」
そう呟いては、コツリッコツリッと優雅に靴音を響かせながら、キッドが舞台に歩み寄っていく。是非とも間近で堪能したかった。盗んではならない、至高の宝玉───、
【神々の慈愛】
これは正に、知る人ぞ知る神聖な神器だ。今まで出会ったどの宝石より、綺麗で、神秘的で、恐れ多い代物だ。その名の通りで、寵愛を受けた榊家の血筋のみ所持する事を許される。そして、無縁の余所者や卑しい盗賊が持てば、全く価値の無い宝石となるのだ。だから『決して盗んではならない』
「……さてと。目的を果たせた以上は、此処に悠長に留まってはいけませんね」
交わした約束を守らなくては。そう言って、キッドが外套を翻して【神々の慈愛】に踵を返す。すると唯一の通路から、ドタバタと騒がしい音が扉の奥から聞こえてきた