第7章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 後編
そこで彼は榊家と政府、警察との関係を調べることにした。が、あくまでも、これは身元や人柄を疑って行う調査ではない。政府と警察が保証するなら、それ以上の詮索も疑いもなかった。元より政府や国家が定めた機密は、同胞が暴くのも晒されるのも禁忌なのだ。だから許された範囲、調べれる情報を知れる量だけ把握する
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一方その頃。鶴丸が改造した罠だらけの扉を、見事に突破した怪盗キッドの動きはと言うと
「待てえぇぇぇぇっ、キッドぉおおお!!」
「そう言われても、待てと聞いて待つわけないでしょう!」
ドドドドドッ。彼らは走っていた。ずっと一筋しかない通り道を駆けた。この人工的に掘られた穴は、左右均一に並ぶ篝火で淡く明るくなっている。キッドは全身が真っ白なスーツで、同じく白いマントを靡かせると、全力で足を動かしながら追っ手の方を振り返った
「ヒェッ…」
瞬間、妙な悲鳴をあげる。秒速で向き直ったキッドの顔は、青白くなって引き攣っていた。般若の様な恐ろしい形相で、後ろから警察達が迫ってくるのだ。生命の危機すら感じる気迫である
「(おいおいおいおい…!勘弁してくれっ!!名探偵がいる時よりヤベェんじゃねぇのか?!)」
そうしてポーカーフェイスを忘れた彼は、余裕を無くした焦り顔になる。いつもの刑事達を翻弄したマジックも、今は出来そうにない状況だ。だから思わず好敵手が恋しくなるし、脳裏に『名探偵』の姿が浮かぶ。名探偵とはキッドキラー基、江戸川コナンの渾名だった
彼はキッドが予告状を持ち主に渡せば、必ずと言っていいほど捜査に加わる。度肝を抜く様な推理力で、何度も窮地に立たされた男だ。しかし今回の捜査にコナンはいない。極秘の一件として除名された。否、実際のコナンは捜査に参加できる、相応しい立場にいるわけではない。本人は当然の様に現場にいるが、あくまでも守られるべき幼い子供だ。キッドを捕まえる権限はない
つまり、今繰り広げている光景こそが本来あるべき姿である。コナンがいない事で、任務の重要性を自覚し、無意識に抑えられた真価を発揮した。それは思わずキッドが、コナン相手より警察に戦慄するほどに
「……こりゃあ、ちょっとの油断も命取りだな。満足するまで見る暇もねぇや」
そう呟いて、苦笑いするキッド。何とか逃げ果せねばと、スーツの懐からトランプ銃を取り出した