第7章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 後編
「鶴さんといまつる以外の護衛は、今宵社への出入りを禁じています。いくら届け物があったとしても、無断で来るなどありえません」
「なら。どうしてその時、貴方方は偽物であると知らせなかったんです?」
「「………」」
安室の言い方が責めるものに変わった。厳しい視線が麻衣を突き刺す。その瞬間、ピリッと肌を刺す様な険悪な空気が漂い始める。護衛の二振りは構えこそしないが、安室を無表情に見つめ返した。すると、顔立ちが整った美男な所為か気圧されるほどの迫力も当然。安室は呑まれてゾクリと身震いした。しかし、
「誓約があるからだ」
「誓約?」
コクリ、と律儀に教える麻衣達は頷いた。その様子は、地雷を踏み抜いたものの、激しく憤ったり険悪そうな雰囲気がない。だから二振りが不気味で不安を煽られたが、それでも何時ぞやコナンを叱った様に、危険な気配は感じなかった。
不思議と何らかの距離感があるのだ。尚も淡々とした説明が続けられる
「そうです。決して破ってはならぬ掟であり、政府や警察のトップの方も表立った遵守を許可しました。神職にとって如何なる誓いも、一般論とは次元が違う。怪盗キッドは我々に対し、予告状という『約束』を告げました…。一方的でも誓いは誓いです。何としても守らせる使命がある」
「……まるで、約束を守らないと何かが起こる様な口ぶりですね」
「『まるで』じゃありません。そも、約束というのは必ず果たすべき、縁の鎖なのですよ。神仏的な事や道理的な観点で見ても、誓いを破る行為は大変罪深い…。他者だけでなく己が魂を裏切り、神前に誓えば古来より祀られる、尊き存在にさえ見限られます」
「……仰りたい事は分かりました。つまり貴方方は神職として、誓いを破った人間の末路から、キッドを導く手助けをしたという解釈で良いんですね?それも政府や警察の許可を得て」
真剣な面持ちの麻衣の言葉は、遠回しで複雑だが理解した。誤解のないよう安室が確認を取ると、麻衣達三人ははっきりと頷く。その瞳に、疚しい嘘や誤魔化しなどは伺えない。しかし、
「(……俄かに信じがたい話だな。仮にも榊家は保護対象じゃないのか?誓約を守る事に固執する意味はなんだ?犯罪を促すような事を、政府や警察が許したのか)」
誓約と保護。それらの在り方に、矛盾を感じてならない安室。