第6章 〜闇夜の邂逅に白き魔術師、驚き好きの鶴も添えて〜 前編
「……え?」
中森の指示に唖然とする麻衣。刑事達は戸惑う事なく、問答無用で隣の顔をギリギリ力強く引っ張り出した。「いてててて!!」当然ながら、全員が涙目で声を上げて痛がり始める。現状の光景に混乱した麻衣は、何でもない様に見ている安室に説明を求めて問いかけた
「あ、あの、安室探偵…。これは一体何をしてるのです?」
「変装が得意な怪盗キッドに、潜り込まれてないか検査しています。特殊なマスクで声真似するので、本物と偽物を区別するには顔を引っ張るしかないんですよ」
「へぇー、そいつは難儀なこったな」
親切にも丁寧な説明をする安室へ、感心した表情で返す鶴丸。それは完成度が高い変装に対してか、地道で苦痛な警察に対してか。きっと、悪戯好きだから前者に決まってる。麻衣と今剣は密かに思った。
「じゃあ、俺たちも警察に習うべきか?」
「でも、ぼくたちはぜったいほんものだって、たしかめなくてもわかってます」
「ええ…。いまつる、鶴さん、私、探偵方、中森警部と一部刑事は、間違いようもなく本物です。あ、『いまつる』と『鶴さん』は職場の渾名です」
「ほォー。麻衣さんがそう仰る根拠は何ですか?参考までに聞かせてください」
妙に確信のある麻衣の台詞で、訝しんだ安室は尋ねてみた。別に彼女をキッドとして疑うのでなはない。だが、確認を取ったわけでもないのに、護衛のみならず安室や小五郎、中森警部まで本物と言う。その観察眼や思考は幾許なものか、麻衣達の言動に興味が出た。然し、曖昧に小さく笑った麻衣は、誤魔化すように肩を竦めたのだ
「ただの勘です」
「勘、ですか…?その割には、自信ありげに言い切ってましたね」
「それは勿論。こう見えて私は、人を見る目が確かですからね───」
そう言った麻衣は、幼い頃からずっと、付喪神や大人達に囲われて育った。それ故に人間の陰謀や腹暗さは、仕事の交流を重ねる中で本能的に悟っている。嘘を吐いた目や、猫かぶりの目、野心に燃える目は見慣れたものだ。『そういうもの』として受け止めている。
『会議で対面した者』の中に、怪盗と思しき者はいない
「しかし、刑事さんの中には今日で、真面に顔を合わせる者が殆ど…。本質を知らない人達に関しては、判断の保証もありませんが」