第27章 〜ホラースポット・ポアロ2〜
「アンタが持ってるソレ、ちょっと確かめさせて」
「えっ?如何していきなりーーー」
「いいから見せて」
清光が『ソレ』と示した物とは、園子が家から持ち寄った壺の事だった。どうして今のタイミングなのか、壺の何を確かめようというのか。不穏な会話の後で清光に急かされた園子は、訝しみながらも指示の通りに風呂敷で包んだ荷物を「気をつけて持ちなさいよ?」と忠告しながら丁寧な手つきて手渡した。すると風呂敷に触れてしまった清光が一瞬、強力な瘴気を感じて不快なあまり端正なその顔(かんばせ)を歪めていた。あまりに悍ましすぎる怨念の気配だった
なので思わず投げ捨てたくなる衝動に駆られた彼だが、それを何とか抑えて麻衣の隣に戻ると机の上で直ぐ様風呂敷の結びを解き始めた。すると麻衣が何処からか出した真っ白な手袋を両手にはめ、少し緊張が滲んだ硬い表情になりながらも清光と共に調査を開始する。ちょうど結び目が解けた風呂敷を彼女がハラリとめくってみれば、古臭い木箱が鎖とお札によって上蓋を完封されていた。件の瘴気を発する壺はその中だ、木箱の上には分厚い茶封筒も存在する
「封筒の中身は一緒に見つかった文書の現代訳よ。現物は大分古くてぼろかったから、訳文のやつで勘弁ね。それと、発見当時を詳しく書かれた資料も」
茶封筒を取って首を傾げた清光に対し、問われる前に園子がその説明を添えると、「ああ、そーいうことね」と納得している返事を口にした。一方、そのまま茶封筒を開けて中身を取り出す清光の隣では、麻衣が手袋を着けた右手の指を木箱の蓋へと這わし、其処に掘られた文字をそっとなぞってみた
「([汝の罪を捧げよ、哀れな血肉と御霊を捧げよ。その憎しみに制裁を以って応えよう』ーーー。恐らく、中身は何らかの化け物を生み出す儀式用。お札に封印術も施されていない。なのに開かないって事は、何か条件があるのかも。そして、男性の直接の死因ではない)」
「……ねぇ見て、ここの欄」
人知れず心の中でなぞった文字を言葉にしながら、冷静な思考で分析を行う麻衣であったが、不意に発見当時の資料を読んでいた清光が声を上げたのだ。麻衣は横から眼前に突きつけられた資料を指で示して「ここ、ここ」と清光に促され、資料に視線を走らせると、やがて目を見開いて息を呑むほど驚いた