第26章 〜ホラースポット・ポアロ1〜
入店してきた男は身長に合ったサイズの服を着てはいるが、服越しで分かるぐらい細身すぎてサイズが大きく見えていた。服で覆われていない肌は健康な白というより、遠目に見ても危うい程に青白い。顔はほんの少し頬が痩せこけ、目元の隈は何日もかけて睡眠が足りていないのか酷い濃ゆさである。そして極め付けに男の両目は虚ろでぼんやりし、安室に案内されて先まで歩くと足取りも覚束ない、つまりコナンが思った通り誰から見ても男は不健康そのもの、或いは状態を見るに違法薬物を使った可能性もある。蘭と園子は麻衣じゃないと理解してすぐ様、顔を晒したために気づいていないのだ
「コナンくんはどう、あの男が貧弱なだけだと思うかい?それとも薬物中毒者に見える?」
「えっ?えっと、お医者さんじゃないから分かんないかなぁ、あはは……」
蘭達よりも離れた席に案内される怪しげな男。世良が向かいで座るコナンへ机に身を乗り出しながら話しかけ、互いに耳を寄せ合い小声で言葉を交わし合う。しかしコナンは意地でも誤魔化したいのか、苦笑いで意見を求めて問うてくる世良をあしらった。実際にどちらが正しいのかなど判別出来ていない。男が幻覚で暴れ出したら黒だがそんな様子は一切なく、独り言がないのに加えて「カウンター席がいいですか?」の問に「テーブル席で」としっかり答えたので病弱なのだと思われる
何とか必死に隠したがっているコナンに、怪訝そうな顔で物言いたげにしている世良は結局何も言わずに渋々座り直した。コナンはそんな彼女からの疑惑がひしひし伝わってきて、居心地悪く俯きながらやり過ごそうと考えた。ところが、彼らに渦巻く事件遭遇の因果はこんな時でも発揮されるのだ
「ぐっ!!」
「……お客様?」
「ぐう゛う゛うっ、あ゛あ゛あ゛ぁぁあっ!!いたいいたい…!!喰わないでくれぇぇええ!!」
「「きゃああっ!」」
蘭と園子の悲鳴が店内に児玉する。男が突然叫び出したと思えば、自身の腹部を抱きしめるように地面に倒れ、のたうち回りながら痛がりだしたのだ。喰わないでくれ、と叫んだ意味を気にする余裕はない。側にいた安室と駆けつけた世良が地面で暴れる男に「大丈夫ですか?!」呼びかけ、コナンは急いで救急車を呼ぼうとスマホでダイヤルを打ち込んでいた時だ。只管絶叫し続けていた男が、激しく痙攣した後に息を引きとったーーー