第26章 〜ホラースポット・ポアロ1〜
承知の上での購入であれば、鈴木財閥であっても今更返品するのは難しい。オークション自体も返品不可能だと事前に忠告してから開催されている。次郎吉は己の軽率な判断を悔いて、ここ二週間ずっと心労で体調を崩して部屋で寝込んだ状態なのだという。そして呪いについては半信半疑なのだが、気味の悪い物は如何にかしないと気が治らない
「ーーーだから私、友人に大きな神社で巫女をしてる子がいるって教えたの。すぐに家族で麻衣に連絡入れて、そしたらポアロに鎖も一緒で持ってきてほしいって頼まれたのよ。絶対中を覗くな、開けるな、触れるなって注意されたわ」
「「えっ」」
すっかり馴染みの人物となった麻衣の名前を聞き、蘭と世良とコナンはそれ程精神的に参っているのだと気の毒に思った。警察にも相談しにくい内容である為、信用のおける専門家に頼むのが一番だ。科学的な証拠がないと探偵でさえ謎が解けない、どういった代物なのかも分からない。おまじないを信じるか否かは兎も角、気色悪い物をいつまでも持ち続けるのが良くない事は明白なのだ。そうして奇怪な話を夢中でしている彼女達であるが、すっと音もなくテーブルに現れた安室が水を注ぎながら声をかけてきて全員が驚いてしまう
「きっと麻衣さんだったらすぐに解決してくれますよ」
「「うわっ?!」」
「あ、安室さん……!ごめんなさい、カウンターの方まで聞こえてたのね?!」
「大丈夫ですよ。他のお客様もいないので、寧ろ僕こそ聞いてしまって申し訳ないです」
コナン達と仲良くビクリと体を震わせるほど驚いた園子が、慌ててこの日のシフト店員である安室に謝罪した。安室も園子の話を成り行きで聞いてしまった事に反省の表情で謝り合っていると、不意にチリンチリンッとドアベルが鳴って客の入店を知らされた。コナン達が一斉に麻衣かもしれないと入り口の方を振り向いてみたが、いたのは顔の血色が悪くて目元の隈が濃ゆい黒ずくめで中年の怪しい男だった
「(……なんだあの人、組織の人間か?にしては随分と不健康そうってゆーか、弱そうなんだが)」
蘭と園子が落胆しながらすぐに視線を外した一方、安室が店員の仕事に戻って笑顔で男をもてなす様子を見ながら世良とコナンは妙な不安に駆られていく