第20章 〜大阪心霊現象ミステリー 迷惑電話編〜
「いいえ、これはあくまで闇雲な対処法に過ぎませんーーー」
典子がもしやと期待を込めた声音で誰かに問うと、淀みなく凛とした声が否と返すのが聞こえた。すると安室達は揃って、相手が誰か気づいて顔を見合わせる。あれは榊麻衣の声だと、一体どんな話を隠れてしようというのかと、既に知っている事があるんじゃないかと。そんな根拠のない深読みによって、コナンと服部は気配を消して聞き逃さんと気を張り詰めた
「ですが、夢の話で考えられる事は二つ……。一つは、夢そのものが暗示によって齎される偶像である可能性。もう一つは第三者から、或いは自覚なしに悪夢を見る状態に至ってしまったのか、です」
「……せやけど巫女さん、探偵の人達からは『そんな夢ありえへん』って」
「はい。それもまた然り、ですよ奥様。彼らは『探偵』ですから当然、科学的に成立するもの、根拠と理屈が通る可能な範囲で推理するのです。私のように、そういった前提を持たない考え方はいたしません」
前提を持たない考え方、そんな発言を聞いて、コナンと服部が揃って顔を不細工に歪めた。そもそも前提も何も、この世に証明出来ないものは存在しないのだ。全ては科学的な計算によって導ける、ありえないモノなど有りはしない。結局、どんなに不可解な話も、蓋を開ければ何の変哲もない絡繰ばかりーーー。そう、今までだって、最終的には全部胡散臭い単純な仕掛けだったのだ。けれど、
「……巫女さん、私も夫も嘘はついてません」
「ええ、勿論疑ってはおりません。嘘をつく人間が謀る気配を感じませんね。ですからご安心を。恐らく彼らもそういう事ではなく、あくまでどういう原理なのかが分からないだけでしょうから」
「「……っ!!」」
実際その通りだった。三船夫婦にとって、嘘を吐いてもメリットがないためそこに懸念はない。しかし、だからこその答えが『ありえない』だった。麻衣は、見事に探偵達の思考を違わず見透かしてきている。その鋭さに少しばかり、自分が劣っている様な気分で狼狽えた服部とコナン。けれど尚更、彼女の話は無視できないと思った
「原理が分からない……?」
「そうです。仮に医学的に脳波へ干渉する物があったとしても、同時に複数の人間が同じ夢で、意識を共有させるなんて事は不可能です。故に、彼らも不服ながらありえないと結論づけたんだと思います」