第3章 〜全てはここから始まった〜
麻衣はそこで言葉を切ると、黒みがかった焦げ茶色の瞳を酷く切なげに伏せてしまった
「───彼らの発言が過ぎていたのは、紛れもない事実ゆえ謝罪します…。本人達はそれを自覚して、敢えて厳しく注意したのでしょう。何せ子供の間違いを正すのは大人の役目です。彼らは我が家の優秀な部下達なのです。世間は物騒ですからね、何がトラブルの元になるか分かりません。だからどうか、其処をご理解して彼らを許して頂けませんか?」
「そ、そんなの勿論当然です…!!元はと言えば此方が先に、コナンくんが迷惑をかけてしまったんです…!」
本当にどうもすみませんでした!!そう早口で言うと、目に見えて狼狽えている罪悪感で一杯の蘭が、丁寧な言葉遣いで謝意を示す麻衣に再び勢いよく頭を下げた。コナンにも頭に手をやって謝らせ、「ぅわっ、蘭姉ちゃん…?!」という呼び声を無視する。込めた力が少し強かったのだ。
だが、そうして先程までの険悪だった雰囲気は、麻衣の柔和な印象と態度で納得してしまう道理や言動も加わり、一気に霧散して消えていった。まるで春一番の風の様に、清浄な空気が吹き荒れる感じである。
麻衣は円満に解決出来た事で満足そうに微笑して頷くと、目だけでチラリと自分の後ろを見遣った。そこでは既に、三人の護衛達が帰る準備を整えて待っている
「……ならば、この件はお相子ですね。ご理解頂き感謝の至りです。そして私からも、従者の失礼を心より反省しお詫びし申し上げます。───……此度は誠にすみませんでした」
再び、蘭達に目を向けた麻衣は真摯な面持ちで謝罪した。思わず蘭とコナンが顔を上げて見てみれば、彼女の方も綺麗な所作で誠心誠意頭を下げていた。そして5、6秒程で元に直ると、切り替えが早いのか穏やかに笑って一言。
「それでは、これにて我々は失礼します」
そう言って、麻衣は緩やかな動作で優雅にその場にお辞儀をした。すると、流石は由緒ある家系の娘なのか、洗練された動作が周囲との格差や存在感さえ見せつけられた感覚になる。これで無意識というのが眩しい。
だからか、思わず皆がその輝きに見惚れた。
彼女に上位者の品格を見たのだ。
こうして、麻衣達が店を出るまでの間、誰も喋ることはなかったのだった───