第3章 〜全てはここから始まった〜
「いくら好奇心に忠実な餓鬼でも、ぷらいばしーの侵害はいかんよな?それも、此方が護衛に守られる様な由緒正しい家の御仁と知って、だ…。危険に晒される秘密なんざ、護身の為に言えんだろ普通は。だから他人を気軽に詮索しても、妙な誤解とトラブルを生むだけと思え。子供相手に言い過ぎてしまったがな、しっかり説教受けたら改めないと将来嫌われちまうぞ」
「……っ!」
清光達の軽蔑する視線や、威圧的で鋭い言葉が痛い。先程までコナンは気圧されつつも名誉の為に反論していたが、事実を指摘する説教の数々に探偵の矜持と自尊心が荒れた。どうしても納得出来なかったのである。
───自分のした事は探偵の性だ、詮索することの何が悪い。
───常に正義を目指す自分が、過ちなんて犯すものか。
自信に溢れる彼の心は、そういった思いから理解されない混乱と苛立ちで綯交ぜ状態になっていた。そして、子供らしい演技に余裕を失くしたコナンは、虚勢を張って清光達を睨みつける。最早、それが彼にとって精一杯の反抗だった。が、然し件の二人は、既に後ろの仲間達に意識を向けている。そして、
「……さて、もう行こうかお嬢。会計は俺に任せておいて、帰る準備をしててくれ。荷物持ちは清光でいいだろ?」
「いーよ、了解!」
「かえりましょう!」
「え?ちょっ…!」
先刻の不穏さは何処へいったか、爽快な笑みを浮かべた彼らは麻衣が咄嗟に呼び止める声も虚しく、せっせと帰る準備を始めた。流石の機動で、言いかけた事も既に諦めるしかない様だ。
麻衣は深い溜息を吐くと「仕方ありません…」と席から立ち上がり、コナンと蘭と安室の前に自ら進んで歩み寄る。すると、三人はまた何か厳しい言葉が来るかと強張った顔で身構えたが、彼女は予想外の言動を取った
「……この度は我が護衛が店内を騒がせ、御子様を酷く叱りつけた事、どうか何卒お許し下さい」
「「……え?」」
ポカン、と三人の口が開く。席にいたままの園子も呆然だった。麻衣は蘭達を真っ直ぐに見つめ、怒鳴るどころか謝罪したのだ
「彼らに不満をお持ちでしょうが、普段は快活でとても優しい使命感ある方々なのです。先程は只、私や仲間や我が家の名誉と安全の為に、護衛としての重大な責務を立派に果たしてくれただけ…。理不尽だとて御役目でした。ですが───、」